ウェルカム・トゥ・マルクール

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ウェルカム・トゥ・マルクール

   「丁度、三年生に進級する時にいらっしゃってグッドタイミングですよ。今は春休みなので、それが終わった四月から、早速入学という事で、よろしいですか?」  髪をお団子みたいに束ねた学校長が聞いてくる。眼鏡をかけ、頭は四角く大きい。小柄で、もう結構な年だろうに、若者が好きそうなアディダスの上下ジャージを着ている。 「はい、宜しくお願い致します」と父が座ったまま深々とお辞儀をする。母も「宜しくお願い致します」と同じように深々とお辞儀をする。僕もそれを見て同じようにお辞儀をする。そして心の中で思う。  こんな息子をもって大変だよね。と、話かけるように。 「優樹君」と僕に学校長が聞いてくる。はい、と答えた。「貴方はこの学園に入学という事でいいのよね?」  僕は数秒固まった。意味がよく分からない。だって、入学する、という事は今まさに決まった事じゃないか。「は、はい……それでいいです……」  学校長は不必要に動揺する僕を静かな目で見つめる。その後に「そう」と優しく微笑む。 「それでは、入学の際に簡単に読んでおいて頂きたいものがございまして……」  学校長(瀬川文子だ。さっき自己紹介してたのに、もう忘れる所だった)は両親の方を向きパンフレットなどを差し出す。僕はなんとなく校長室を見る。立派な机の前にソファが二つあり、真ん中にテーブルがある。そのソファに僕と両親は瀬川校長と向かい合うように座っている。それ以外は資料などが並べられた書斎しかない部屋だ。机の後ろからは日の光が差し込んできている。ふと、机に写真がいくつか置いてある事に気付く。学校長と、いかにも不良少年、少女といった二人が並んでいる写真。真ん中に満面の笑みでいる瀬川校長は今日とは違い教師らしいスーツを着ている。右側にいる不良少年はツンツンに立たせた頭を金色に染めている。「なんだよ?」と写真の彼に言われているような気がした。左の不良少女は金髪にパーマをあてている。日本というより外国の不良少女という感じだ。  隣の父が背中を軽く叩いてくる。なに? というような顔を父に向けると「どうなんだ?」と聞いてくる。何が? 「今から学校見学、行きたくない?」と瀬川校長が聞いてきた。  僕は瀬川校長の方を急いで向く。どうやら話しかけられていたようだ。「いや……あの、行きます」
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