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 真夏の日差しが照りつける中、つかの間の癒しの風が開け放った窓から家の中に吹き抜ける。家の周りを覆う木々が葉を揺らし、陽の光を浴びようと大きくざわめく。風と木々の音、それから生き物の息吹。それだけしか存在しない世界の中で、三國誠司は家の中で一番日当たりのいい窓際に寝転がり、大きく息を吸い込んだ。  一番近所の家まで歩いて十分。買い物に行くには車で十分。他者と関わるには手段は変われど同じ時間が必要となる、人里から大きく離れた一軒家。ここは、誠司と猫達の城だ。  隣家の室外機から吹き出す温風もなく、車の排気ガスもないこの家は、都会より涼しく過ごしやすい。一応エアコンは家にあるものの、人工的な冷風より自然の風を好む猫達のために、この家の窓はいつも全開だ。  山と田園風景が広がる場所に、突如現れる北欧風デザインの一軒家。まるで、自然とモデルハウスのイメージ図を具現化したような家に、誠司は十六歳から四年間一人で暮らしている。孤立した一軒家ゆえに近所と言える近所の住人も居らず、例え家の中で倒れても数ヵ月は発見されないのではないだろうか。 「それは困るよね」 「なぁーん」  声と共に腹部が振動し、誠司の身体を寝床にしていた猫が不満を示すように鳴いた。 「ごめんね、ケイト。起こした?」  謝りながら、ライトグレーの柔らかい毛並みにそって撫でてやると、あっという間に機嫌を直し、ケイトはまた誠司の身体を枕に昼寝の体勢を整える。獣医にかかったとき、ケイトは『ラグドール』と呼ばれる品種の猫だと知った。様々な種類の猫の混血であることは分かっているが、どのような交配によって誕生したのか不明だという。  四年前、この家に住み始めたばかりの時、最初に迎えた猫がケイトだった。人里離れた一人暮らしで何があるか分からない。だから、生き物を飼う予定など端からなかったというのに、捨て猫だったケイトを見つけたとき、どうしても放っておく事ができなかった。 「無責任って思う?」 「にー」  撫でながら問いかけると、意味が通じているはずもないのにタイミングよくケイトは鳴いた。宝石のように丸く美しいブルーの瞳と目が合うと、ケイトには本当に言葉が通じているような錯覚を何度も感じる。 「あは。くすぐったいよ」
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