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ケイトと見つめ合っていると、今度は足元で丸まっていた猫が自分にも構って欲しいと言わんばかりに誠司の足を舐めた。くすぐったさに身じろぐと、今度はケイトの反対側に寝ていた猫を起こすことになってしまい、謝りながらもう一方の手で撫でた。
ケイトをきっかけに、家には猫が増える一方で今では十匹になってしまった。どの猫も誠司によく懐いており、日向ぼっこで床に転がるといつも周りは猫に囲まれる。
「いけない。今日は来客があるんだった」
猫達を起こしてしまった事をきっかけに身体を起こすと、壁にかかっている時計が視界に入る。時刻は昼の一時前。約束の時間は一時丁度だ。
「ごめんよ。今日のお昼寝はここまでだ」
誠司の身体にじゃれつく猫達に軽く挨拶をして立ち上がる。何匹かは誠司が立ったあとも日光浴を続け、また何匹かは誠司の後ろをついて歩く。
無駄に広いリビングダイニングを猫と共に歩き、カレンダーの前で足を止めた。年始にスーパーの粗品としてもらった質素なカレンダーには、締切日を示す青丸と八月三十日に赤丸が着けられている。
「あと、二週間か」
赤丸を指でなぞりながら呟くと、ケイトが誠司の足に擦り寄った。その優しい温もりを抱き上げ胸の中に抱えると、ケイトは心地いい音色で鳴いた。
「ありがと。俺は大丈夫だよ」
柔らかい毛に頬を摺り寄せ、囁く。
そうしていると、車のエンジン音が聞こえてきた。そして少し間を空けて玄関のインターホンが鳴った。
「来たみたい。いくよ」
「なぁ」
誠司の声にケイトは応える。
やっぱり言葉通じているよね。
そんな夢のような事を考えながらも、誠司はその顔から表情を消し、玄関に近づいた。
「はい」
ドア越しで相手に聞こえるように声をかけると、明朗な声が返ってきた。
「こんにちは。私、ハウスキーピングサービスの葛西と申します。三國様のお宅でしょうか」
「はい、そうです。今開けます」
ドア越しでもよく通る低音だが真っ直ぐな声は、明らかに男の声だ。多少意外に感じつつも、誠司はケイトを床におろし、玄関のドアを開いた。
「はじめまして。ハウスキーピングサービスより参りました、葛西弘明と申します」
「はじめまして。三國です」
相手に合わせ短い挨拶を返し、誠司は会釈した。だが、想像とはかなりかけ離れた人物の登場に、内心は驚いていた。
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