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ただ普通に名乗って挨拶をしただけなのに、なぜ疑われなければいけないのか。心外だと湧き上がる感情を隠さず眉間に皺を寄せる。その表情に気づいた葛西は慌てて頭を下げた。
「失礼しました。著書とお名前から、もっと歳上な印象があったので」
「よく言われます、名前負けしてるって。所詮ペンネームですから」
三國誠司。その名前とミステリー作家と言う職業から、貫禄のある四、五十代の男性をよく連想される。だが、実際の誠司の容姿はその真逆といっていい。
不規則な生活習慣から痩せた貧弱な体型に、生まれつき色素の薄い瞳と髪。伸ばしっぱなしの髪は適当に一纏めにして、短いしっぽのように首元で跳ねている。それなりに身なりを気にしていた頃は中性的で綺麗な顔立ちと形容されることもあったが、ひきこもり生活の今は容姿を気にする必要もなく、無精が続く一方だ。
「それにしても、若いですよね。おいくつなのですか?」
「俺に関心を持たないよう伝えていたはずですが」
葛西の社交辞令のような質問を、誠司は冷たく突き放す。その返答が不満だったのか、葛西は僅かに眉を寄せたが、すぐに気を取り直してまた「すいません」と頭を下げた。
「詳細なプロフィールは一切探るなということでしたよね。謎のミステリー作家というのも大変ですね」
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