出会い

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結局、診察の結果は重度の鬱状態と胃潰瘍と診断され、落ち着くまで入院となった。俺は薬が効いて眠っていたらしく、起きた時は病室が茜色から紺色に染まり始めていた。 サイドテーブルにはあの時買ってくれたペットボトルの水が置いてあった…。 そして、辺りを見回したが助けてくれたあの男性は居なかった。丁度様子を見に来た看護師が来たので聞いてみた。 「あ、の…俺と、一緒に来た男の人は…?」 「代永さーん、体温と血圧測りますよ。あぁ!あの方ね。代永さんを連れてきて入院って分かった後、出て行っちゃったんですよ…『行く所があるから』って。だから分からないの…ごめんなさい」 看護師は体温計を俺に渡し、慣れた手つきで血圧を測りながら答える。 「そう、ですか…」 ここまで連れてきて貰ってお礼の一言も言えてない。あのペットボトルの水も買ってくれた物だ、せめてお金だけでも返したい。連絡先だけでも聞こうともう一度看護師に聞いてみる。 「あの、連絡先…とかも分からない、ですか?」 「ごめんなさい。私じゃ分からないの…それに個人情報だから知っていても勝手に教えられないの…」 『分からない』『知っていても教えられない』の回答に俺はどうする事も出来なかった。     
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