病院

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朝、蒼威さんが見舞いに来てくれていた。 「いつもすみません…今日、緋彩さんは?」 「緋彩は今日仕事です。今日は会議があって緋彩はどうしても出席しなきゃいけないので、また別の日にでも来ますよ」 持って来てくれたフルーツたっぷりのタルトに手を伸ばす。甘いものは嫌いじゃない。 少し大きめの口を開けて一口頬張った。 「そう言えば、あの市來っていう警察官に文晴(ふみはる)の事話したんですね」 ぐぅっと変な音がして胸が(つか)え、慌てて胸を叩く。 「うっ、ごほッ!!」 「だ、大丈夫ですか!!噎せちゃいましたか?」 慌てて出してくれたペットボトルの紅茶に手を伸ばし、一気に流し込む。凄く美味しかったのに、なんだか勿体ない…… 「ゴホッ…うっ…す、すみません…その、市來さんの言うことにどうしても我慢出来なくてつい……。その!何か変な事聞かれました?天野との事…」 蒼威さんが首を振る。 「いえ、大丈夫です。市來とは昔、接点があって…実は、今回は全く身に覚えのない事で俺に疑惑を向けられてて困っていたんです」 「警察官なのに、そんな……」 「まぁ、それだけ俺と市來の間に昔は色々あったって事ですよ。でも代永さんの言った事に少しは心動いたみたいですよ」 蒼威さんの表情には安堵の表情が浮かんでいた。 「現場検証に来てた時に『恋人、大事にしろよ』なんて言われて、俺への疑惑は少しは晴れたようです。有難うございます」 「晴れたんですね…良かった」 身に覚えが無いことって、今回とは別の事なんだろうか…? そんな疑問がチラッと頭を掠めた時に、ノックする音が聞こえゆっくりと引き戸が開いた。 入って来たのは、見た事がない壮年の男性と若者だった。
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