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新しい職場
目の前に大きなビルがある。下から見上げたら最上階の方は霞んで見えにくいぐらいだった。
ここに新しい職場になる『株式会社M i C』がある。
以前とは全然違う規模の大きさに足が進まない。
最初は断ろうと思っていたが、『ずっと席を用意して待ってる』と言われ断りきれなかった上に、一度会社の雰囲気を見て、楽しそうに仕事しているのが羨ましくて結局入社を決めてしまった。
もう、失敗したくない最後の賭けだった。
どこに行けば分からない上に、まだ仕事に対する恐怖があり前に進めない。嘔吐きそうになるのを必死に堪える。
立ち尽くしていると、後ろから声をかけられた。
「どこ行くの?ウチに何か用?」
少し低めの落ち着いた若い男性の声。驚いて身体をビクつかせ後ろを振り向く。
「あっ!わっ!…そのっ…すみません…」
慌てて頭を下げる。綺麗に磨かれた革靴と生地の良さそうなスラックスが見えた。長い脚を辿る様にゆっくり顔をあげると端正な顔立ちの若い男性だった。その黒い瞳が思いっきり俺を睨んでいるように見えた。
「すみません…!!し、失礼しました!!」
やっぱり、こんなエリートみたいな人が沢山居る中に俺みたいなのが入るなんて無理だ…。さっきまで辛うじて固まっていた決心が呆気なく崩れる。
元来た道を帰ろうと歩こうとするが、さっきの人がまだ立っていて動けない。
「いや…俺、何もしてないけど…ウチに用事じゃ
なかったの?」
「いや、あったんですけど…もう、無くて…その…すみません…」
帰ろうにも身体の大きいその人は俺の行く手を阻んで通してくれない。
段々心拍数が上がって呼吸が荒くなってくるのが自分でもわかった。
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