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「いや、前まで来て中に入らず帰るとかおかしいでしょ?…面接?」
俺が俯いて首を横に振る…首だけじゃなくて身体も震えている様な感じ、膝が笑ってるのが分かる。
「どこに行きたかったかだけでも聞いてもいい?」
男の声が近くになった。そして少し柔らかくなった声に顔を上げると目の前に男の顔があって吃驚してしまった。整えられた眉、キリッとして意思の強そうな黒い目は睨んでいない様だった。
「そ、その……開発、営業部に……」
「ん?開発部?営業部?それとも開発営業部?」
言われた言葉の意味が分からず戸惑っていると、男がゆっくりと話してくれた。
「えっと、ややこしいんだけど、ウチ『開発部』と『営業部』と『開発営業部』って分かれてて、全然違う部署なんだよ。あんたの言い方じゃどっちか分からなくって」
「す、すみません…開発営業部……です。あっ、でも…もう大丈夫なので…すみません」
俺の言葉に男は『ふーん』と一言言って俺の手をいきなり掴んだ。
「ーーひっ!!い、いきなり何ですか!?」
「俺も開発営業部に行くから一緒について行ってやるよ」
男は俺の手を取ったままビルの中に向かって歩き出した。
「えっ…そんな、だ、大丈夫です、から…離してください」
半ば引きずられる様にビルの中に連れて行かれる。周りの視線がこっちを向いていて痛いほど刺さってくる。
「先ずは受付に行って入館用ID貰わないとね」
男はそんな視線を全く気にする事なく、俺の手を取ったままどんどん中へと進んで行った。
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