休日

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「景都。樹君のパパと知り合い?声かけられたみたいだけど…」 「ううん、知らない人(・・・・・)。樹君が無事にご両親に会えて良かったなって思って…」 そうだよな…仕事も出来て容姿も完璧な部長なら勿論結婚して子供が居ても当たり前だよな…… 当たり前の筈なのに何でこんなに胸が苦しくて痛いんだろう…女の人が側に居る部長の姿なんか見たくなかった…。 俺はここから一刻も早く離れたくて、咄嗟に『知らない人』と嘘をついた。 「…そうだな。よし、飯行くか?」 「うん!2人待たせているから早く行こ!」 俺は『お腹すいた』とかわざわざ大声を出し胸の痛みを誤魔化しながら早足でフードコートに向かった。 フードコートで待っていた新田と天野と合流し、4人でご飯を食べた。それぞれの近況など他愛もない話をしながら時間を過ごす。転職の理由は『体調崩して辞めた』とだけ答えた。 食事も終わり、店内を4人でもう一度散策や買い物をする事にした。 胸の痛みはずっと続いていた…もう一度会ったりしないだろうかと不安と緊張でいっぱいで、俺は買い物を楽しむ余裕は何処にもなかった。 部長とはその後会うこともなく夕方になり、そろそろ家路につくことにした。 行きと同じ様に助手席には俺が座り、後ろの席には新田と天野が座った。 新田と天野は車が動き出すと直ぐ寝てしまった…。 しばらく沈黙の時間が流れた後、意を決した様に林が声をかけてきた。 「仕事…大変だったんだろ…体調崩すぐらい…何で俺や新田に相談しなかった?」 「えっ…その…ごめん……何か、言う機会なくて…」 「電話でも、メールでも何でも良かっただろ……連絡しても全然繋がらないし…」 2人からは時々連絡は来ていたが、殆ど仕事中で取る事ができなかった。そうしている内に何を話せば良いのか分からなくなり、電話もメールも返事をしなくなった。 相談したら自分が弱いと、もっと働けと言われそうで怖かった… 俺は何も言わずそのまま俯いた。
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