第八話(完)

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第八話(完)

 晴れて、篠原と想いを交えた翔太は、嬉しさと一週間の出来事も含め、色んな想いが溢れ返り泣きじゃくった。そんな翔太を、篠原は泣き止むまで抱きしめ、優しく背中を擦ってくれた。 「ふっ、ぅ……っ、かい、さんっ……っ、っ」  篠原の腕の中で、たくさんの涙を流す翔太。  今までの気持ちを、想いを、全て涙に変えて流していく。 「こーら。たくさん泣いたら目が溶けるだろ」 「っ、とけ、ないですぅ、うっ……」 「ああ! ほら、またっ!」  なかなか泣きやまない翔太を見て、篠原は困った笑みを浮かべる。この状況とはいえ、校門前でずっとこうしているわけにもいかない。 「翔太。……ほら、泣きやんで?」  優しい声色で促し、背中をとんとんと優しくあやすように翔太を宥める。赤ん坊みたいで思わず含み笑いをしてしまったが、これで少しでも泣きやんでくれるのであればいくらでもやり続けた。  すると、本当に少しずつだが、ようやく嗚咽が落ちついてきた。 「大丈夫?」 「……っ、はい……」  小さな声で返事をする。腕の中で頷く翔太が可愛すぎて、心の中で叫ぶだけに止めておいた。泣いて、少し赤くなっている目元を擦りながら、篠原は翔太に向けて微笑んだ。 「翔太。改めて、これからよろしく」 「はいっ……! 僕のほうこそっ……!」 「それと、……今までごめん」  申し訳なさそうに謝る篠原に、翔太はあることを思い出した。 「あ、あの……」 「ん?」 「訊きたいことがあるんですが……」 「訊きたいこと?」 「……っ」 「翔太?」  泣きやんだ次は不安な表情へ変わる。なにか言いたそうにしていても、なかなか切り出せない。  それを、篠原が「まだ不安なことがあるなら言って」と促してきた。  気持ちが通じ合った今、この話題を出してもいいのか迷いもあるが、それでもきちんと訊いておかないといけないと思い、翔太はゆっくりと話しはじめた。  それは、ある放課後のこと――。  中庭の放課後で見てしまった光景。放課後、中庭で翔太と同学年の子が篠原と楽しそうに会話をしていたときのこと。  そのことを告げれば、篠原は気まずそうに「あー……」と言いつつも、きちんと答えてくれた。予想通り、篠原のことが好きで告白をしてきたという。それを篠原が断り、そのあと好きな人の話題になったため、翔太のことを思い出しながら話をしていたら「惚気ですか」と笑いながら文句を言われたと話す。 「見てたんだね」 「……はい。嘘ついてごめんなさい」  でも安心した。中庭で会っていた子が、篠原の好きな人ではなくて。 「いや。俺も嫌な思いさせて悪かった」 「いえ……僕が勝手にぐるぐる悩んでしまったから……」 「もう翔太を不安にさせないくらい、うんと甘やかすから。明日も、明後日も、ずっと、ずーっと一緒にいよう」 「っ、はい!」  すっかり二人の世界に入り込んでしまうも、周囲に人がいなくてよかった。二人は周囲を気にせず、そのままはじめて触れ合うだけのくちづけを交わした。 (……そうだ。あのときのキスは未遂で終わったから、これがはじめてのキスだ……)  そんなことを心の中で思い出しながら、翔太は頬を染めた。  今はとても心が穏やかで、気持ちのいい青空が広がった気分だ。  両想いになり二週間が経った。  翔太は弁当をふたつ持って、屋上へと向かう。残念ながら、弁当は翔太が作ったのではなく、母の手作り弁当だ。 「お、来た来た」 「……芥さん。弁当だけを楽しみに待ってたんですか?」 「違うって! 翔太が来るの、とても楽しみにしてたよ。早く逢いたいな、授業早く終わらないかなって……」 「そ、そうですか」  照れくさくなりながらも、翔太は篠原の隣に腰を下ろした。  弁当が入っているランチバックからふたつ取り出し、そのうちのひとつを篠原に渡す。いただきます、と二人で手を合わせて、弁当を食べはじめた。 「あ。ねぇ翔太」 「なんでしょう?」 「きちんと持ってきた?」 「はい! もちろん、持ってきましたよ!」  実は、今日はじめて篠原の家にお泊まりするのだ。  土日を利用してのお泊まり会。とはいえ、学校からそのまま篠原の家へお邪魔することになっている。母親には先輩と勉強会をするという名目で許可は得ている。  そのため、今日も学校だというのに、篠原の家でお泊まりすることを考えれば考えるほど、幼稚園児並みに昨晩は眠れなかった。  晴れて恋人同士になって訪れる、篠原の家。  嬉しさと恥ずかしさで、心臓がいくつあっても足りない。 「それでさ、家に帰る前に、夜ご飯なにか買って帰ろう」  以前、篠原は両親を亡くしており、今はひとり暮らしをしていると話してくれた。そんな篠原の家に二人きり。恋人同士だからといって、必ずしもなにかあると期待してはいけないと思いつつも、ほんの少しだけ下心は持ち合わせていた。 (……あれ? これじゃあ、期待してるみたいじゃないか!)  瞬間、身体全体がぶわっと熱くなり、恥ずかしさが勝った。  そんな翔太を、篠原は話しながら様子がおかしいことに気づき、心配そうに見つめた。「大丈夫?」と声をかける度に、必死になって「大丈夫です!」と上ずった声で返事する翔太。  なにもかも、恥ずかしくなることを考えてしまった翔太がいけないのだ。 「帰りは昇降口じゃなくて、翔太の教室まで迎えに行くから」 「え? いつも通り、僕は昇降口でもいいですよ?」 「翔太のばか。察しろよ」 「……あっ!」  拗ねた篠原に、そういうことかと翔太は恥ずかしくなった。  少しの時間でも多く翔太と一緒にいたいのと同時に、彼氏の特権としてお迎えがしたいとも言ってくれた。 「嫌?」 「嫌じゃないです!」  頬を染めて、翔太は思いきり首を横に振った。  いっぱいいっぱいになっている翔太の行動に、篠原は愛おしさを感じて笑みを零すと、翔太の肩をグイッと引き寄せた。 「わ……!」 「可愛い、翔太」 「か、可愛くないです……」 「いいや、翔太は可愛いよ。翔太の可愛さは俺だけ知ってればいい。じゃないと、他の人に翔太を取られてしまう」 「っ……芥さんは物好きですね」 「そんな物好きを好きになったのは誰だろうね」  ああ言えば、こう言う。  顔を覗きこまれ、至近距離で笑われた。  真っ赤になっている翔太はさておき、篠原は微笑んだまま顔を近づけて、掠めるだけのキスを交わして唇を奪っていった。  それぞれの授業も終わり、放課後となった。  お昼の屋上で言われた通り、翔太は篠原が迎えに来るのを教室で待っていた。時間はそんなにかからず、篠原が教室に姿を見せた瞬間クラスがざわついた。それだけで、篠原が迎えに来たということがわかる。  クラスメイトに「また明日」と挨拶して、篠原の元へ向かう。  そして、他愛のない会話をしながら昇降口へ向かった。靴に履き替え、校門を出たところで篠原が翔太の手を握ってきた。何度も周囲の生徒に見られているのもあり、今となっては恒例の手繋ぎでもあるが、やはり恥ずかしくて照れくさい。  いつもとは違う帰り道を、二人で一緒に歩いていく。 「そういや、今日の夜なに食べたい?」 「えっと……」 「夜ご飯買って帰ろうって言ったけど、せっかく翔太が家に来てくれるわけだし、自信はないけど全く作れないわけでもないから、俺が作れるようなものであれば材料だけ買って作ろうかと……」  そこまで言えば、翔太は考え込んだ。  なにを食べたいかと問われれば、パッと思い浮かばない。どうしようかと悩んだ結果、久しぶりに食べてみたいなというものがあった。 「……オムライス、食べてみたいです。芥さん! オムライス作れますか?」 「あ、ああ。オムライスであれば作れるよ」  目を輝かせながら言う翔太にびっくりして、篠原は目を見開いた。 「やった……! 芥さんの作るオムライス、食べてみたいです」 「わかったよ。なら、帰りにスーパー寄って帰ろうな」 「はい!」  大好きな人と、手を繋いで帰り道を歩いていく。  こんな風に晩御飯のことを一緒に考えていると、なんだか同棲している気分になり、翔太は口元が緩んだ。  スーパーに寄り、必要な分だけの食材を買い物かごへと入れていく。他に必要なものがないか確認してレジで会計を済ませると、持ってきたエコバックに翔太が詰めはじめた。 「翔太。エコバック、いつも持ち歩いてるの?」 「母から急に買い物を頼まれるときがあるので、つい……」 「そっか。でも、そのほうが楽だよな。あ、荷物は俺が持つよ」  貸して、と言ってくる篠原に「僕も持ちますよ」と翔太も言うが、両者とも譲らない。お泊まりで、篠原にご飯を作ってもらうのだからこれくらいはと思い、荷物くらいは翔太が持とうと考えていた。  しかし、篠原に「それだと、荷物持ちだけのために一緒にいるみたいじゃないか」と、苦笑交じりに言われてしまった。翔太からすれば別にそんなつもりではないため、何度も「大丈夫ですよ」と言うも篠原はなかなか納得してくれなかった。  だが、エコバックを見てなにか思いついたのか、篠原はこう提案してきた。 「ならさ、片方俺が持つから、もう片方は翔太が持って」 「……え?」 「ほら。そうすれば、二人で共同作業してるって感じがするでしょ」  荷物で手を繋ぐことはできなくなったが、ひとつの荷物を二人で一緒に持つ。なんだかその荷物が子供に見えて、子供を真ん中に挟んで両側から翔太と篠原が子供の手を繋いでいるような錯覚が起きてしまい、翔太の心はくすぐったかった。 「なに想像したのかわかんないけど、翔太、耳真っ赤」 「~~っ」  ひとり暮らしをしている篠原の家はアパートで、築年数経っているのかと思いきや、ここ十年もしないうちに建てられたようで外観はとても綺麗だ。  そして、それは家の中も同じ。部屋の中は、あまり物を置いていなくて、とてもシンプルだ。 「芥さん、あまり物を置かないタイプですか? それに、とても部屋が綺麗……」 「うん。今時の男子高校生って感じがしないでしょ? 物も、その辺に置くより、きちんと整理整頓して片づけておきたいし」 「そうなんですね」  部屋のあちこちを見渡す翔太に、「見渡しても面白くないよ」とくすくすと笑う篠原。  アパートでワンルームにしては、間取り的には広いほうだ。部屋の端にベッドが置いてあり、中央には折り畳み式のローテーブルが置いてある。折りたためば布団も敷けるくらいの広さだと、篠原は教えてくれた。  また、ローテーブルを挟んだ向こう側――ベッドの反対側にはテレビとテレビ台の代わりになっている横に細長い棚が置いてある。 「翔太。部屋はいつでも見れるんだから、先にご飯作ろう」  はじめて彼氏の部屋に足を踏み入れたことにより、色々と興味津々である翔太は、篠原に声をかけられるまで部屋の中を呆けた顔で観察していた。 「え、あああっ……ご、ごめんなさい、僕……!」 「いいよ。そんな珍しいものは置いてないけどね」  スーパーで買ってきたものを冷蔵庫に入れながら、篠原はオムライスを作る準備に取り掛かろうとしていた。慌てて「手伝います」と言えば、篠原は翔太に卵を渡してきた。 「きちんと教えるから一緒に作ろう」 「はい!」 「ご飯は冷凍しているものがあるからそれ使って」  スーパーでの荷物の件でもそうだったが、一緒に作ることでこれも「共同作業」なんだなと思うと、本当に同棲――いや、今度は新婚気分を味わっているような気がしてならない。 (なんてことを考えているんだ……!)  恥ずかしくなり、胸が高鳴り興奮しているのがわかる。 「どうかした?」 「あ、いえっ、な、なんでもないです!」 「顔、真っ赤だけど……?」 「い、いえっ……僕の邪な考えが……」  最後には語尾が小さくなっていき、篠原からは「変な翔太だな」と笑われた。余計なことを考えなければよかったなと、心の中で思いながら、翔太は篠原と共にオムライスを作っていった。  二人で作ったオムライスをローテーブルに運び、手を合わせて「いただきます」の合図と共に食事がスタート。 「ん! 美味しいです!」  二人で作ったからこそ、料理はおいしい。  だが、翔太は手伝っただけであり、ほとんど篠原が作ったと言っても間違いではない。それに、二人で作ったから美味しいのもあるが、好きな人と一緒に食べれることにも美味しさを感じた。  食事が終われば、片づけも一緒にした。  それから、先に翔太が風呂へと入り、そのあとに篠原が交代で風呂に入ることになった。その間、翔太はベッドを背もたれにして寄りかかり、ボーっとしながらテレビを観ていた。 「――しょーた!」 「わっ……!?」  突然名前を呼ばれ、横から抱きしめられたことで思わず素っ頓狂な声を出す。  こんなことをするのは、ひとりしかいない。  犯人である篠原を見れば、風呂上がりもありシャンプーの匂いが鼻孔を掠める。抱きしめている篠原に顔を向ければ、彼は嬉しそうに微笑んでいた。 「なあ、翔太」 「なんですか?」  柔らかい声をかけながら、抱きしめられている篠原の腕に翔太の手が触れる。翔太の肩口にこつんと頭を乗せた篠原は、そのまま話を進めた。 「……改めて、翔太が俺を好きでいてくれて本当に嬉しいって思ってさ。気づいてたか? 俺が、一週間だけって言ったときの翔太の表情」  あのときに言われた言葉は、今でも痛いほど覚えている。  好きな人にあんな言葉を言われて嬉しいはずもなく、表情には出さずに平静さを装って応えたはずだ。  それなのに――。 「どことなく、つらい表情してたんだよね」 「芥さんには、そんな風に見えてたんですね」 「なんで、あんなこと言ってしまったんだろう、もっと他に言いたいことはあったはずなのに……って、あとあと後悔したさ」 「それなら……! 普通に先輩として声をかけてくれればよかったのに……」 「それができたら苦労はしないよ。なんたって、好きな子なんだから。……でも、本当にそうだよね。どうにかして近づきたい、なにかきっかけはないかって考えた結果が、あれだったんだよ」  告白する前に、翔太のことを色々と知りたかったそうだ。  それこそ、「友達にならないか?」と声をかければよかったのではないだろうか。苦笑する篠原に、翔太も釣られて笑った。  今となって考えれば、面白いはじまり方。  当時は、面白いだなんて微塵にも思っていなかった。好きな人のためならと思って応えたことだ。 「でも、こうして両想いでよかった」 「僕もですよ」 「少し頼りないところがあるかもしれないけど、これからもずっと好きでいてほしい」  肩口に埋めていた顔をあげ、翔太の頭に手を伸ばして引き寄せる。そのまま唇が重なり、離れたあとはお互いに微笑みあった。  それから、篠原は唇が触れるか触れないかの距離で告げた。 「……翔太を、俺の色に染めてもいいかな?」 「……っ」 「って、言葉がくさいよな」 「そんなこと、ない……です」  泊まりに行くということは、そういうのも含めて少なからず覚悟していた。 「……その、僕でいいんですか?」 「こーら。俺は翔太がいいの。翔太しか抱きたくない」 「芥さん……」 「翔太は?」 「ぼ、僕だって、芥さんとじゃないと……え、えっち……したく、ない、です……」  はー可愛い、とため息を零しながら天を仰ぐ篠原をぐいっと引き寄せて、今度は翔太からくちづけを交わした。 「ん、あっ!」 「気持ち、い?」  ベッドの上に移動して、お互い一糸纏わぬ姿へとなった。  同性と身体を重ねることは、お互いにはじめてだ。  しかし、翔太を怖がらせることをしたくなかった篠原は、実は密かに勉強をしていた。不慣れだけど痛くしたらごめん、と先に謝り、優しく翔太にキスをする。一度、達した翔太の性器を篠原の大きな手と口で愛撫していった。  とぷ、と零す蜜に、篠原はなんの躊躇いもなく、舌先で掬い取り、啜る。 「んぁああッ……! あ、やっ……ま、た、イ……かい、かい、さんっ……!」  はじめての快感で困惑している翔太を、篠原は「大丈夫」と落ちついた声色で安心させる。また、優しく頭を撫でてくれた大きな手に翔太も気持ちよさを感じながら、快楽の底へと堕ちていった。  二度目の絶頂が近づき、翔太は身を震わせる。  そして、腰を浮かせて、跳ねるように熱を迸らせた。 「ん、んぁ――――ぁ、っ、んぁ、あっ……ッ」  一度ならず二度までも、篠原は翔太が放った白濁を口内で受け止め、それを嚥下した。息も絶え絶えになりながらも、翔太はか細い声で「はいて、ください……」「きたない」と言っても、篠原は聞く耳を持たなかった。 「さっきから思ったけど、翔太って敏感だよね」 「っ、あ……もっ……」 「ちょっと触っただけで……ほら、勃ちあがる」  若いって凄い、と笑う篠原を、翔太は「親父くさい」と心中思ってしまったことは声に出すことはしなかった。  篠原だって、翔太と同じ男子高校生だというのに、なんだか悔しい。なにか対抗できないだろうかと余韻に浸っている中で考えていると、完勃ちして天を向いている篠原の性器が視界に入る。 (人のこと言えないくせに……!)  悪態をつきながらも、翔太は興奮していた。わざと触れてみようかと思うも、篠原が口を開いた。 「……翔太。最後までって、意味わかってる?」 「っ……わかって、ます……」 「俺とひとつになるんだ。俺のちんこ、翔太の中に挿れたい」 「……はい。僕だって、そのつもり……です……」  覆いかぶさってくる篠原に言われながら、翔太は微笑んだ。  汗ばんだ肌、興奮で乱れる呼吸、言葉と共に吐きだされる熱い吐息。今の篠原には、早く翔太の中に挿入して、思いきり揺さぶりたい気持ちでいっぱいだった。 「後ろ、使うんですよね……」 「うん。でも、俺は翔太に痛い思いだけはさせたくないから……」  ――俺を信じて。  魔法の呪文を耳元で囁かれ、ローションを垂らした篠原の手が、誰も触れたことのない翔太の後孔へと触れた。  つぷ、と指先を少しだけ挿れる。 「っ……なん、か……へ、んっ」 「ここ、きちんと解しておかないと、痛い思いをするのは翔太だよ。……ローション、冷たいけど足すね」 「ぁ……っん、く……」  更に滑りをよくしようと、後孔にローションを足していく。  指先だけで、ぬぷ、ぬぷ、と動かしながらゆっくり指の根本まで押し込んだ。 「あ、んんっ……!」 「指、痛くない?」 「少し……でも、変な感じが……んっ、ぁ……」  内壁を指でかき分けながら、柔らかく広げていく。  ローションの手助けもあってか、滑りは悪くない。はじめて後孔に指を迎え違和感はあるものの、このあと篠原の性器を迎えたときにはどんな快楽が待っているのか想像もつかない。解された内壁には、いつの間にか指二本となっており、感じたこともなかった刺激が脳天を駆け抜けた。 「ひぅ……!」 「……ここ、ね」 「ぁ、や……やだっ、かい、さッ……」 「大丈夫。翔太が最も感じる場所だから」  篠原が見つけた場所は、開発されれば気持ちよくなれる前立腺。そこを重点的に責めていけば、翔太の性器は悦び、鈴口からは先走りを零していた。 「けど、俺も結構ギリギリ……ちゃんと解れてると思うんだけど、きつかったり、痛かったりしたらきちんと言うこと」 「っ……あ……」  指を抜かれた入り口は、ひくひくと篠原を煽ってくる。 「……大丈夫だから」 「は、い……っ」  後孔に、スキンを付けた性器が押しつけられる。硬くて熱いその剛直は、入り口を擦りつけただけで、まだか、まだかと収縮をはじめている。そんな卑猥な入り口に篠原は舌なめずりをして、翔太の腰を抱えると一気に挿入した。 「ん、ぁあああ……ッ……い、ッ……あ、あっ!」 「っく……翔太、息、詰めちゃだめ……吐いて、く、ッ……」 「は、はっ……ん、ぁ……ふッ……」  少し違うかもしれないが、意味合い的には一緒で、女性が処女喪失するのと同じで「痛い」という気持ちがわかったかもと、ぼんやりとした思考する。  ただ、痛くても好きな人と結ばれることには、とても多幸感がいっぱいだと感じた。  そのあとは、ただただ篠原に与えられる快楽に身を任せて、優しく抱かれた。  朝、目を覚まして起きれば、腰に鈍い痛みが走った。全体的にだるく、起こした上半身を倒して横になった。 「おはよう、翔太。……その、痛いよね」  声のするほうへ顔を向ければ、篠原は申し訳さなそうな表情をしていた。横たわっている翔太の腰に手を回して抱き寄せる。  至近距離で「大丈夫じゃないよね」と、心配させられた。 「今日はゆっくりしよう。土曜で学校は休みだし」 「うう……すみません」 「それに、翔太を介抱できるのも、はじめての特権だと思えば嬉しいし。ま、はじめてじゃなくても、つらいときはいつでも介抱というか、甘やかせてあげたくなる」  優しい笑みを零す篠原に、愛おしさが増す。 「翔太と繋がれて幸せだ」 「大袈裟な……でも、それは僕も同じ気持ちですよ」  翔太は腕の中でもぞもぞと動きだし、篠原の胸元へ擦り寄った。篠原のなさそうである逞しい胸板。温かい体温。  そして、心臓の音。  どれも感じることができて、とても幸せだ。  篠原の「一週間だけ恋人になってくれないか」と、突然のお願いがなければ、卒業するまでお互い声もかけずに遠くから見るだけで終わっていたかもしれない。  特に、勇気が必要な翔太にとっては、篠原を想うだけで終わっていただろう。  それも、篠原の突拍子もないひとことではじまった偽りの恋人同士は、回りくどいことになってしまったのは確かだが、最終的には本当の恋人同士へとなったのだからハッピーエンドだ。  つらくて、泣いたこともあった。  けれども、今は好きな人と素敵で、幸せな時間を過ごしている。  ――これからも、本当の恋人としてずっと一緒にいてください。  翔太は篠原の腕に抱かれながら、幸せな気持ちで目を閉じた。  終わり
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