第1章 ちゃんと向き合えなくて

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こんなにも綺麗な空を見たのは久しぶりのことだ。 公園の芝生に敷いたレジャーシートの上で、高原瑠子(たかはらるこ)は満ち足りた気持ちに包み込まれていた。 長いこと欠けていたパズルのピースがようやくあるべき場所に収まったような、なくした宝物がやっと自分の手に戻ってきたような、達成感と安心感と幸福感が混ざり合ったようなこんな気持ちは、思えばもう随分と瑠子の日常から姿を消していた。 ようやく取り戻せた。 後悔に唇を噛み締めるような日々ももうこれで終わりだ。 長い試練の時を越えて、瑠子は自分の日常に彼が必要不可欠であることに気付いた。 そんな満ち足りた気持ちをそっと手渡すように、視線を隣へ向ける。 そこに彼の姿はなかった。 反射的に体を起こし、辺りを見回す。 穏やかな休日の午後を迎えた公園は思い思いの時間を過ごす老若男女で溢れ、瑠子はたった一人、大き過ぎるレジャーシートの上に取り残されている。 少し離れたところで若い男女のグループが楽し気な声を上げながらバドミントンをしていた。 芝生を囲むように設置されたベンチの一つでは老夫婦がおしゃべりに花を咲かせている。 ただ呆然とその光景を見つめる瑠子のすぐ側を子どもたちがはしゃぎながら駆け抜けて行った。 「……竜造(りゅうぞう)?」 口から零れた名前が頼りなく宙を漂った。 それはすぐに空気に溶けて、辺りはまた穏やかな休日を満喫する人たちの息遣いで溢れる。
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