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第一章 See What I've Become
『人は泣き叫びながら、一人で生まれてくる』
台所で忙しく立ち働く母親は、エプロンに取りすがってくる我が子をわずらわしそうに見やった。幼子(おさなご)が、桶に張られた水面(みなも)に映る自分の顔にうれしそうに手を叩いた。幼子が手を叩くと、水面の子も手をたたいた。
幼子が笑うと、水面の子も笑った。幼子は、同じ年頃の子供の登場に喜びの声を上げた。
水面の子は、幼子と同じだった。頬にある逆十字のあざまで同じだった。
逆十字は堕天の証。穢(けがれ)の家に生まれた穢(けがれ)の子。
声もなく笑う水面の子の頬にも同じあざがある。二匹の赤い蛇が逆十字に螺旋に巻き付いていた。幼子が真顔になった。二匹の赤い蛇が、ちろちろと舌を出して蠢いた。
逆十字を這い回り、幼子を威嚇する。水面の子があざ笑うような眼差しをよこした。
幼子を突き飛ばし、怒鳴りつける嫌な大人たちと同じ目だ。
「お母様 僕のほっぺに赤い蛇がいるよ~。とって、とってぇ」
幼子は、母親のエプロンにすがりついた。
「またウソばっかり! なにもいやしないじゃないか」
母親は、子供の顔を見もせずに毒づいた。
『神様が僕にくれたのは堕天の証。逆十字』
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