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イプシランティ家の使用人から渡された重い木槌を軽く手にとって振りかぶった。使用人が半円のついた杭ささえの棒を両側から差し出し、男の腹の上で杭を固定する。
死刑執行人グイドがザクセン法により準備万端整った旨を宣言する。
ティディエが腕をあげる。
麗しい深窓の令嬢が木槌を振り上げる。一発、二発、三発。公会堂前広場の地面に杭打ちの音が響く。返り血を浴びた令嬢が四発目を振りかぶったのを、グレンが慌てて止めた。
「それ以上は、いけません。罪人を必要以上に苦しめた罪を問われます。後は、我々におまかせあれ」
うやうやしく頭をさげたグレンに頬を染め、令嬢は、グレンに血塗られた木槌を渡した。
罪人は、見事に腹にきっちり杭を打ち込まれていた。大体、こういうのは形式的なものであまり深く打ち込まずに、罪人を見ただけで深窓のご令嬢らしくたおやかに気を失いあそばされるのが普通だ。死刑執行人が抜きやすい程度に残りの杭を打ち込む。デブこそが美しい時代である。死刑執行人の都合などおかまいなしに、きっちり根本まで打ち込まれた杭をどうやって抜こうと死刑執行人一家が顔を見合わせる。杭の残りを左右から叩いてぐらぐらにしてから抜くのが普通なのだが、そんな隙間などない。舌を突き出した罪人はとうに絶命している。
「死刑執行人は、速やかに罪人を絞首刑に処せ!」
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