第一章 See What I've Become

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「これはこれは、ジルジウの街の君臨者! 首をはねておしまい! ハートのクイーン! ティディエ司教」  飛んできた弟の生首と自分の生首を両腕の上を転がし、兄の道化師の幽霊は、ティディエに両手を差し出した。両手の上に、それぞれ兄弟の生首が乗る。 「僕の首を斬れといったのも、君の首を斬れといったのもこの御方。おとしいれた人は数知れず」  双子の道化師の幽霊が口をそろえて歌う。ティディエにジロリとにらみつけられ、幽霊兄弟は、お互いの生首を投げつけあって、群衆の頭上をきゃああと、悲鳴をあげて逃げていった。 「静粛に! 静粛に!」  真紅のローブをまとったティディエが木槌を打ち鳴らした。ワラキア公国城塞都市ジルジウ。川幅三キロのドナウ川を挟んだ川向うのブルガリア帝国がオスマン・トルコ帝国の手に落ち、今やイスラム教徒と向かい合う最前線だ。ワラキア公国は正教の地だが、異端審問で名高いフランシスコ修道会は、対オスマン・トルコ対策を名目に司教のティディエをこの地に送り込んだ。キリスト教世界の最果てであるワラキア公国には、異端審問が長年追い詰めてきたあらゆる異端が流れ込んできているはずだった。 「罪人は、婦女暴行未遂の罪によって、神の御名により、杭打ち並びに絞首刑とする! 罪人は、死刑執行人に引き渡される!」     
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