第一章 See What I've Become

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 この時代、豊かなご家庭において、太らないことは屈辱であった。まあ、あのご家庭は娘に食事も与えてないのよと陰口悪口さんざんである。太らない体質のものは過酷な努力を強いられるのだ。朝一番に売りに来る牛乳を大鍋で沸かすのは、どこの家庭でも女の仕事だ。生では飲めない。雑菌という知識はないが、経験則により、大鍋で牛乳は一度沸騰させる。その時、浮かんでくるクリームを無理やり食べさせられるのだ。相撲部屋の如し。  強姦未遂。ティディエの言葉に、嘘はない。拷問による自白。教会の修道女が太鼓判を押したように、ご令嬢は処女のままだ。高ぶる性欲、日々押し殺した劣情、ある日暴発した罪人の男は、死を覚悟のうえで、商人の家に押し入り、令嬢を陵辱せんとした。  このところ近隣で相次いでいた連続婦女暴行事件の犯人だった。度重なる犯行の最後に標的として選んだのが裕福な商人の娘だった。行き詰まった人生を街で有名な商人の娘を手篭めにすることで自分を有名にしようとしたのだ。  令嬢の分厚い肉の壁により果たせなかったのは事実である。重い令嬢の足をやっとのことで肩にかついだのはいいが、分厚い肉の壁にはばまれ、届かなかったのだ。  男は、下手くそと叫ぶ令嬢のひと蹴りで壁に叩きつけられ、駆けつけた賞金稼ぎに取り押さえられたのだ。デブこそが美しいのである。  フランシスコ会による婦女暴行未遂も処女の証明も、裕福な商人が金で買ったに違いない。持参金の額を少々上げるだけさ。ゲスい群衆のニヤニヤ笑いの中、ご令嬢が進み出た。      
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