0、幻想の溶解

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0、幻想の溶解

 石造りの雨風を寄せ付けない家々――――――――熔けた。  のこぎりのように鋭い葉をまとう林――――――――溶けた。  そこに住む人々――――――――解けた。  その様子を照らす満月は、まるで灼熱の太陽のように思えた。  人々はヘドロの沼から這い上がり、月を掴もうともがいている。  しかし、掴もうと伸ばした手が目の前から崩れ、溶けて混ざり合った泥沼に流れて行く。  溶けた家、自然、人々は、七色の絵の具をかき回したよに、不気味な模様と色に変貌していく。  重力に逆らえず、全てが地に溜まった一つの塊になると、静寂が月夜を支配した。    その沼の中心が盛り上がる。     それは、5本に別れ、扇型に広がると、そのまま地上を突き出てきた。  伸びた腕は沼の水面に倒れ込むと、力を入れ一気に沈んだ本体を引き上げる。    どす黒い液体にまみれた半身が這い出ると、液体から片足を出し、満月に向かうように立ち上がる。  細身の人形を思わせるシルエットは、月の光に当たり、全身の汚れを洗い流している様相を見せた。  全身にまとわりつくヘドロが流れ落ちると、透き通るような白い肌が、月光を反射させる。    砂時計のようにくびれた腰。  頭から腰まで蓄えた長い髪は、淡い水色に染まり、 上部から下部にかけてグラデーションを形成していた。  水色の髪は模様が描かれた、白い糸のような線が、放物線状に広がり、線だけで表現された地平線のようだった。  彼女は、磨かれたアクアマリンのような瞳で、久しく目にする満月を見たのだった――――。
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