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 小説を書いていることは家族に秘密にしていた。  ところがある日、とある新人賞でちょっといい結果を残したため、しかもペンネームを考えずに本名で投稿していたため、家族に即座に気付かれてしまった。  ああ、面倒くさいことになったなぁ、と思う。  家族にばれるのはいやというか、何となく恥ずかしいのだ。適当なペンネームを考えておけば良かったと酷く後悔した。  ――にしても。  新作を楽しみにしている、なんて、結構なプレッシャーだ。  まずはねぎらいの言葉くらいの方がいいのに。天才では無いのだから、ネタは必ず枯渇する。  とくに僕が書いているのはミステリーだ。そんな、一朝一夕でネタができあがるわけもない。  机に突っ伏し、何時間、何日間もかけてトリックを生み出す作業は、本当に疲れ果てる作業なのだ。  無論楽しくはあるけれど、疲れてしまうのも間違いの無い事実。  そのことを思わないで、とりあえず新作が読みたい、なんて、なんていう厚かましさ。  今日も頭を抱えている時に、母がにこにこしながらその話題を出してきて、僕は何度も叫びだしたくなるのを堪えて。      ………      ああ、そうか。なんて簡単なこと。 「ねえ母さん、素敵なトリック、思い付かせてくれてありがとう」  そう言って僕はにこっと笑った。  ――その言葉に返ってくる言葉は、永遠に無いのを、僕は知っているけれど、ね。
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