四) 穴を想う

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 伊藤は真っ暗な天井を見上げていた。  眠れない。自分の部屋でベッドに横たわっているものの、今日知った『穴』のことが頭から離れず、かれこれ一時間近くが過ぎようとしていた。  あれはなんだったのだろうか。  あの穴を見つけた時に自分の中で生まれた『何か』。それは確実に伊藤の中に浮かび上がったのだが、今はもやがかかってその姿を確認できないでいる。  誰かが掘った穴。  一体、その人物は、なんのために穴を掘るのか。  公園まで実際に穴を調べに行った二人だったが、結局何も手掛かりは掴めなかった。  自転車を押しながら歩く帰り道で、山本は思いつくままに様々な可能性をあげてきた。    「やっぱり何かを探しているってことで、徳川埋蔵金」  「あんなとこに?」  「どこかであの辺りに埋められているということを聞きつけた犯人が、夜な夜なこっそりと探しているんだよ」  「いや、だとしたらもうちょいがんばれよ。一日一穴でギブって」  山本は眉を寄せ、別の可能性を思案する。  「タイムカプセルってのは?犯人は昔、あの辺りに埋めたんだけど、細かい場所がどこかわかんなくなっちゃったんだよ。ほら、これならそこまで必死に探さなくてもいい」  「んー、でも別の公園にも掘られてたんだよな?穴。それだと細かい場所どころか、大雑把な場所すらわかってなくないか?」  というか、だ。実はずっとそんな気がしていた。  「探し物じゃないんじゃないかな……」  「じゃあ、なんだっていうんだよ。埋めるためでもない、掘り起こすためでもない、とすれば」  「それは……わからない。わからないけど、もっと全然違う理由だったりとか」  「全然違う理由?……あ、じゃあ、こういうのは?あれは何かの合図とかメッセージで、犯人はそれを誰かに伝えようとしている」  「穴で?」  「わかった。犯人は何か大きな秘密を知ってしまった。こんなこと誰にも言うわけにはいかない、でも言いたい。言ってしまいたい!そこで、穴を掘ってそこに秘密を叫ぶことにした」  「王様の耳はロバの耳だったわけだ」  ここまでくると、山本ももう本気で考えるよりは伊藤とのやり取りで遊んでいたのかもしれない。思いつくものは出切ったという感じだ。  「どうでもいいんだけどさ」伊藤は言う。  「『犯人』ってのやめない?」
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