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伊藤は山本と別れた後も一人考え続けた。自室の机で、夕食時の食卓で、風呂でもトイレでも。ひたすら穴のことだけを考え続けた。
退屈な毎日に突然現れた穴。最初は暇つぶしくらいの気持ちだった。しかし、もしかしたら何かを穴に期待し始めていたのかもしれない。
とはいえ、いいかげんこれ以上考えても仕方がないだろうと、一旦今日のところは諦めて眠りに就こうとしたのだが、穴の方が伊藤から離れてはくれなかったというわけである。
その人物はなぜ穴を掘るのか。穴とはなんなのか。考えがぐるぐるまわる。
伊藤はふと、ここまで来ると逆転の発想が必要なのではないかと思った。
そうだ、逆転の発想!
『なぜ穴を掘るのか?』を考えるのではなく、『なぜ穴を掘らないのか?』を考えてみてはどうか!
……いや、なんだそれ。
もはや、よくわからないことになってきている。
伊藤は低い唸り声とともに、一つ寝がえりをうった。
やめよう。どうせわかりっこない。なぜ穴を掘るのか、あの穴にどんな秘密が隠されているのかなんて、それこそ穴を掘った者にしかわからないのだ。いいかげん不毛なことはやめて眠ろう。明日も学校だ。変わらぬ単調な毎日が待っている。
そう思ったときだった。
そうだ――。
一つの思いつきが脳裏に浮かび、伊藤は暗い部屋で勢い良く体を起こす。
次の瞬間には、もうその思いつきを実行に移すことしか頭になかった。
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