二) 穴を聞く

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 「なあなあ、穴の話あるじゃんか?」  前の席に座る山本は、くるりと後ろ向きに座り直し、机に突っ伏していた伊藤に話し始めた。  「あなのはなし……あなのはなし……とは?」  授業から解放された教室は生徒達の声でざわついている。今終わった五限目の日本史を半分以上夢の中で受けていた伊藤は、まだはっきりとしない頭で山本の言葉を反芻した。  「また寝てたろ?」  「……眠くなる授業をやる方が悪い」  「伊藤、日本史起きてたことないだろ。さすがの酒井ちゃんも途中で伊藤のこと睨んでたぞ。伊藤、酒井ちゃんのことナメてるだろー」    何が嬉しいのか、ニヤニヤと山本が告げる。教師を『ちゃん』付けで呼ぶこの男の方がよっぽどナメてると思う。    「で、なんだっけ?あな?」  「ああ、そうそう。ほら、最近この辺りで、穴が掘られてるっていう」  「ん?なにそれ、どういうこと?」  ようやく意識がはっきりしてきた伊藤は、出しっぱなしの勉強道具を片付けながら聞き返した。どうやら教科書によだれの染みは出来ていないことに安堵する。  「あれ、知らないか。伊藤ともあろうお人が」  「どんなお人よ、俺は」  「生粋のミステリーマニア」  「うん、言うほど読まないな。ミステリー」  「読めよ!ホームズを!」  「なぜにシャーロックを強制された」  「三毛猫だよ!」  「まさかの赤川次郎!」  適当な山本との会話は話が進まない。このあとも同じような掛け合いで遊んでしまい、結局帰りのホームルームまでに話は確信に迫らず、続きは放課後へ持ち越しとなった。
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