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終業のチャイムが鳴り響く中、大半の生徒は帰りの支度または部活の準備を始めている。
山本は先程と同じ姿勢、同じトーンで伊藤に話しかけた。
「なあなあ、穴の話あるじゃんか?」
「おお、デ・ジャヴ~」
いいかげん確信に迫ることにした。
「三丁目の方に菊水の森公園ってあるだろ」
「ああ、あの大きめな」
自然公園とでも言うのか、同じ公園でも住宅街によくある子どもたちが集うそれとは少し異なる空間。伊藤は登下校の際に目に付く、その豊富な樹林の育った場所を思い浮かべる。
「二週間くらい前だったかな。誰かが掘ったであろう穴が見つかったみたいなんだよ」
穴?掘ったであろう……?
「穴、っていうのはどんな?」
「ほんとただスコップで掘ったような穴。そんなバカみたいに大きくも深くもないらしいんだけど、穴の横には掘り出した土が小さな山になってて」
「うん」
伊藤はいくつかの質問を一旦呑み込み、とりあえず話の続きを聞くことにする。
山本の話はつまりこうだ。
初め、散歩中のおじいさんだかが見つけたその穴は、それほど気にとめられなかったという。それもそうだ。特に何かが入れられているわけでもなく、かといって落とし穴というわけでもない。ただの「穴」なのだ。ほんの少しの違和感である。
ただし、それが一つなら、だ。
穴は毎日一つずつ増えていった。
掘りだされた土も積もれば山となるように、初めは小さかった地域住民の不安も少しずつ膨れ上がっていった。
そして、さすがに気味悪がった人々が管理先である区に連絡をし、穴はふさがれ、公園には『穴掘り禁止』の張り紙が出されるまでになったという。
『穴掘り禁止』て。伊藤はその響きにおかしさを覚え笑いをこらえる。
「ええと、じゃあそれでとりあえずは解決したってこと?」
「ところが、これで終わりではない」
伊藤は、まあそうなんだろうなと思ってもいたので、大して驚かず先を聞く。
「今度は別の場所でも穴が見つかったんだ」
穴が発見されたのは同じ地域の公園数ヶ所。しかも数日後には菊水の森公園でもまた穴が掘られだしたという。
形状が同じだったことや、決まって一日一つずつという法則から、穴掘り犯は同一人物であろうと見られているらしい。しかし、今尚その人物は捕まっておらず、目撃情報もない。
それにしても、伊藤のお気に入りワード『穴掘り禁止』には大した効力がなかったようである。
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