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「そもそもさ」そこまで聞いて伊藤は根本の疑問を口にする。「なんのための穴だ?」
「そこなんだよ」
どうやらこの噂を耳にした山本も、そこが一番引っかかっていたようだ。
「謎なんだよな。単なるイタズラにしては、穴ってなんだそれ?って感じだろ。禁止されてでも掘りたい穴ってなんなんだよ」
伊藤も同意見だった。イタズラならそれこそ落とし穴にでもすればいい。まあ、そこまでの悪意のないイタズラということも考えられなくはないが。しかし、穴を掘るという行為は何か特別な目的を感じさせる。
腕を組んだ山本は俯き少し考え込んだかと思うと、「伊藤はさ」と不意に視線を上げ訊いてきた。
「どんな時に穴を掘る?」
「どんな質問よ。残念ながらここ最近穴を掘った記憶はないな」
「俺だってないわ。だからさ、例えばだよ、例えば」
伊藤は教室の天井を仰ぎ思い浮かべる。穴……穴か……。
「うーん。俺が思いつくのは、何かを埋めたい時か、何かを探している時、かな」
「まあ、やっぱりそうだよな」
「でも、何かが埋められていた形跡はないんだろ?」
「俺も実際見たわけじゃないけど、聞くところによるとそうらしい。それに何かを探してるにしても一日毎に穴一つっていうのが、どうも何かを探しているようにも思えない……」
たしかにそうだ。もし何かを、仮にこっそり探したいにせよ、一か所掘って見つからなければ別の場所もすぐ掘ればいい。それ程大きなものでなければ、穴一つ掘るのにそれほど時間もかかるまい。
なんだか不思議な話だ。その「穴」には一体どんな秘密が隠されているのか。
伊藤がそんなことを考えていると、不意に山本が立ちあがり、自分のかばんを肩にかけた。
「よし、行こう」
「行くって、どこに?」
ニヤリと笑みを浮かべた山本が、芝居がかった口調で言う。
「始まりの場所へだよ、ワトソンくん」
ホームズはホームズでも三毛猫の方じゃないのかい、とは口に出さず伊藤も席を立った。
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