三) 穴を探る

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 二人の通う高校から自転車を15分ほど走らせたところに、その公園はある。  伊藤と山本は中学のころから一緒で、二人とも高校へは自転車通学できる距離に住んでいた。つまり、同じ地域にあるこの公園も二人の行動範囲内ということだ。  公園には入口が数カ所ある。二人が入ってきたところからは、まず子供たちが遊ぶ遊具スペース、次にサッカーやキャッチボールをするグラウンド、そしてテニスコートと続く。更に奥には目的の場所となる、自然の多い一帯が広がる。脇にはランニングコースが公園を一周するように繋げられており、二人はそこを歩いていた。  まだ夕方にさしかかるくらいの時間帯だけあって辺りは明るく、子どもたちが遊ぶ声も聞こえる。先程からランニングコースですれちがう人もいた。  あっ、と気付き伊藤はふと立ち止まる。目線の先には掲示板があり、例のワードがでかでかと貼られていた。  『穴掘り禁止』  だめだ、実際見るとなお面白く感じてしまう。しかし、どうやらこれで山本の聞いた話は本当だったらしいことがわかった。  「あの辺りだな」  山本が指し示す一帯は地面がやわらかい土になっており、高い木々がそびえ、草花が生い茂っている。靴の裏に先程までのランニングコースとは異なる自然のやわらかさを感じながら、二人は小さな森を進んだ。心なしか空気も良い気がして、足取りも軽やかになりだしたところだった。    それは突然二人の前に現れた。  『穴』だ。  まぎれもない、『穴』――。  次の瞬間、伊藤を不思議な感覚が包んだ。  身動きがとれず、穴から目を離すことができない。まるで視線がどんどん穴に吸い込まれていくようなそんな感覚。辺りから音が失われていき、ピーンと張り詰めた音だけが自分の中で響いていた。  吸い込まれていく。  どんどん……吸い込まれていく……どんどん――  「今日の分、かな」  山本の声に、伊藤はハッと我に返った。  周囲の音が戻ってくる。  (今のはなんだ……?)  横に立つ山本は、伊藤の異変にはまるで気付いていない様子で目の前の穴を見下ろしている。彼の様子を見るに、どうやらほんの一瞬の事だったらしい。伊藤は何かを振り払うように左右に頭を振り、再び穴に目を向けた。  
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