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改めて観察すると、それは半径20センチほどの穴だった。深さは足を入れると膝下まで入るくらいか。そこには先程感じたほどの深さは無かった。
そして横には、元々その場所にあったであろう土が丁寧に積まれ、小さな山をつくっている。
「まだふさがれてなかったのはある意味ラッキーだったな。毎日こまめにやってるわけでもないのかね、お役所の方々は」
山本はそんなことを口にしながら、穴の横にしゃがみ顔を近づけ、中を観察し始めた。
伊藤は辺りを見渡す。たしかにこの場所なら、夜中にでも来れば人目につかないだろう。外灯からも少し離れ、何より高くそびえたつ木々が空を覆い、辺りは真っ暗なはずだ。
伊藤は、暗闇の中ただ穴を掘る人影を想像すると、どこか不気味さを感じ身震いした。
「やっぱり何も入れられてないし、ただの穴だな」
穴の中をいくらか足で掘りながら、山本が言う。
「なあ、なんか変な感じしなかったか……?」
伊藤はやはり先程のことが気になっていた。
「変?変って?」
「いや、この穴を見つけた時……」
「いや、特に……え、伊藤、何か感じたのか?」
「あ、いや……ごめん、俺もやっぱよくわかんないや。なんでもない、なんでもない」
「なんだよそれ」
納得いかない様子でしかめっ面を浮かべる山本をよそに、伊藤は話を切った。
うまく説明出来る自信がなかった。というより、なぜか山本には理解してもらえない気がした。いや、『気がした』ではない。彼には理解できない。
なぜかその感覚は確信めいており、それが伊藤をなお困惑させた。
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