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「そうでしょうね、ノートに遺書のようなものが残されていたと彼の親から聞きました。そこには直接的に俺のことが書かれていた訳では無かったみたいですが、その……失恋した日から元々静かだったのが更に静かになりましたからね」
今回、小説家Aがインタビューを受けているのは新作の発表に併せてである。
先輩記者の男が、この話はこれくらいで切り上げるか……と時計を見たところで、突然小説家Aは口調を変えて語り出した。
「でも感謝してるんです、彼に」
「感謝ですか」
小説家Aは彼に告白された当時は考えもしなかったが、最近になってよくあの頃を思い出すのだと言う。
友達と思っていたのに裏切られた気持ちだとか、勝手に好きになられて気持ち悪かったとか、当時の若かりし自分が感じた事を一通り語る。
武勇伝を自慢するような、少しふんぞり返った様子に新人記者の女は違和感を覚えた。
だが、先輩記者の男は話を聞いて感動していると言っては鼻まですすり出す。
ここで何かを言ったところで、また怒られるだけだと思えば黙って会話内容をメモしているしかなく、手帳をまた1ページ捲るのだった。
「つまり、彼のお陰で今作が出来たと言っても過言ではありませんね」
「そうです、その通り。彼のような少数派は世界を見渡せばどこにでもいる、日々肩身の狭い思いをしながら……分かりきっている筈なのに気付けていないこの真実を、少しでも多くの方に知らせたかったんですよ。今作を通じてね」
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