ちかといいます

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受話器を持ち上げ耳にあてる。 「はい、株式会社○○、佐藤が承ります」 佐藤さんは通常どおりの応対した。 「.........」 「もしもし、──」 「.........」 電話の相手は何も喋らない。 「もしもし、どちら様でしょうか?」 しばしの沈黙のあと、やっと反応があった。 「ちか××います」 声がやけに小さく聞き取りづらいが佐藤さんには「ちかといいます」と言っているように聞こえた。 おかしな人だなと、佐藤さんは思った。普通どちら様と尋ねれば、名ではなく姓で応えるのが普通だと思う。 咄嗟に思い浮かんだのは以前同じ部署で働いていた『柏木千佳』だった。 彼女は社内で『ちかさん』と皆に呼ばれていたからだ。しかし、彼女は数年前に退職して他県である実家に戻っていた。 「どちらのちか様でしょうか?」佐藤さんの問いに、電話の主は「ちか××います」同じ言葉を何度も繰り返すだけ。 佐藤さんはため息をひとつついた。イタズラ電話かと受話器を置こうとしてふと気付く。
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