7人が本棚に入れています
本棚に追加
受話器を右耳にあてているのだが、受話器から聞こえる同じ言葉が左耳にも聞こえる。
電話機を通さず直接耳にとどくその声に鳥肌が立った。
(ちか××います)囁くほどの声量。
(ちかく×います)女性の無感情な声が繰り返す。
(ちかくにいます)
耳元に、はっきりと気配を感じて佐藤さんは思わず振り向いてしまいました。
女性がいたそうです。
三十代くらいで、顔は紙のように真っ白なんですが、それ以外は人となんら変わらない容姿。
無表情の顔が目の前に現れ咄嗟に顔を背けるが体は恐怖で固まる。
尚も(近くにいます)と耳元で繰り返す声に目を瞑り必死に耐える。
どれくらいの時間そうしていたのでしょうか、佐藤さんは一分にも十分にも思えたそうです。
声が聞こえなくなり恐る恐るゆっくりと目を開けた。
手に持つ受話器からツーツーと通話が切れた音だけが聞こえる。先ほどの気配も無くなり振り向くがなにもいない。
デスクに置いたカバンを掴むと一目散に走り出した。
ドアを抜けたところでトゥルルル、トゥルルルと鳴り出す。
今度は1台ではなく複数の電話機が鳴り出した。まるで見えない無数の手が佐藤さんに掴みかかって来るような嫌な感覚がしたという。
急いでエレベーターに乗り込むと佐藤さんはタイムカードも押さず、逃げるように会社をあとにした。
最初のコメントを投稿しよう!