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不審者の視線
駅のホームに立っていると、毎朝、必ずあの男の視線を感じる。
スーツを着ているからサラリーマンだと思う。年レハイ三十前くらいかな。
隣のホームに立っていて、そちらの列車が車でいつもじっとこちらを見ている。
完全に不審者だけれど、話かけて来る訳じゃないし、痴漢行為とかも今のところはされていなから、駅員さんに訴え出るのはどうだろうと思ってしまい、結局毎朝、相手の乗った列車が去るまで、私は不愉快な視線にさらされ続けている。
赤の他人に毎朝じろじろ見られるのは本当に嫌だ。
あの男がこの駅を利用するのをやめてくれればいいのに。
* * *
駅に来ると、毎日必ず、隣のホームに立っている女の子を見てしまう。
田舎町の、あまり利用者のいない駅。隣のホームは廃線で、そこに立っていても列車は来ない。
廃線になってることを知らないのだろうか。でも毎朝駅に来ているなら、そのくらいのことは普通知っている筈だ。
気になって、つい視線を向け続けていたらとある事実に気がついた。
たまにその子の体が透けて、向う側の風景が見える。
つまりその女の子は…。
周りは一切気にしないから、女の子が見えているのは俺だけなんだろう。
どういう理由で幽霊になり、ずっとホームに立っているのか。知りたい気持ちはあるけれど、とても声なんてかけられない。
それでも怖いもの見たさで、今朝も俺は自分の乗る列車が車で、背景が透けて見える女の子の姿を凝視し続けた。
不審者の視線…完
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