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「心臓麻痺ですって。エレンはちょっと太りすぎでしたからね」と、エレンより三つ若いジーン・マオは、電話の向こうですすり泣いた。ちょっと太り過ぎに気をつければ、エレンはまだまだ元気だった、と言いたげな口ぶりだった。
「エレンの肥満には、ネネもあんなに注意していたのにね」と、ジーンは鼻を噛んだ。ネネの名を聞いて、不謹慎にも笑いをこらえることが出来なくて、私は、ははは、と笑ってしまった。滅多に風邪もひかない人間にとっては至極迷惑な事に、自分の持病を御旗にして、療法知識や健康法を振り回すやからが、広い世間には時々いるものだ。ネネ・オカンポ夫人がまさにその典型で、彼女は他人の健康を決して認めようとはしないたちだった。「いま健康だからと言って油断していると、やがて不吉な未来に見舞われる」と、カサンドラさながらに断言して憚らない。ネネ夫人は、二十世紀初めに父君の赴任先の東欧で生まれて、子供の時からずっと地中海製の喘息に悩まされて来た。おかげでアズマに付いては、論文が書けるほど通暁しているし、学校時代にお勉強がよく出来たようにはあまり見えないのに、そこいらのお医者顔負けの医学的雑学があって、それをひけらかす機会はけ
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