笑っていて下さい

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笑っていて下さい

愉快な人、だった。 明るくて。 いつも真剣になっていた。 夢中になっていた。 仕方のない人。 彼の声ばかり聞こえてしまう。 「これで最後」 電話を終えかけて、テーブルから途切れ途切れに 耳に入ってきた言葉 最後、なんて 言わないでよ… お願い。 携帯電話をしまいながら席に戻る。もう会えないかもしれないと不安が募る。 雨が降っていた。 雨足は、ひどく、強まった。 あなたが雨になって消えてしまいそう。 私、少し酔ったみたい。 ふわりと回された腕が、世界をつなぎとめるみたいだった。 最後くらい、最後なら、これくらいのわがままを許してよ。 行かないで。 こんなに雨がひどいから 「…雨宿り、しませんか?」 世界が、変わるとしたら ほんの一瞬のなんでもないきっかけ かもしれない 彼方の空は澄んで青く広がっている。 ねぇ 私と一緒に、虹を見ませんか。 「虹が見たい。」 あなたと。 あなたと一緒に。 あなたは何かを隠しているようで、 そこには触れられなくて、 分かっているつもりになっても近づけず、 私は近づくことをよしとしなかった。 できなかったから。 その距離は近づくことなく、 この先もきっと。 何度も、言わせたりしない、 分かってる。 世界は白んで、足元が崩れていく。 私を見ないで。 恋の歌の終止符はあなたに打たせた、卑怯者。 -了-
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