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我ながら良く出来た子だ。カナは幼稚園の先生で、弾くのも歌謡曲が多いけれど、それにしてもすごい。
「まあ、ほらこどもたちにしゃべりかけながら弾かなきゃいけないしね。これくらいできないと。おかーさん、ご飯食べた?」
カナの手を見ながら小さく首を振った。こっちを見ながら音符のダンスまでやれるなんてもう神業にしか見えない。
「じゃあ、一緒に食べよう」
カナがエレクトーンから離れて台所へと向かう。宙で踊っていた音符がふっと消えて、カナの足音だけが振動と一緒に私をあやす。
「今日はカレーだよー」
カナが台所からひょっこり顔を出してにんまり笑った。私のために弾くのをやめて、笑いながらカレーを用意してくれるカナが、私は大好きだ。
「今日のカレーはねー。かなり煮込んだからすごーくおいしくできたと思うの」
私の口に運ばれていく銀のスプーンを凝視してカナは念押しにそう言った。カナの料理をまずいだなんて思ったことはない。むしろ私の口にどんぴしゃなのはカナの料理くらいだ。駅前にあるちょっとこじゃれたお弁当屋さんなんて敷居ばかり高くて自分の口にあったためしがない。
一癖も二癖もある自分の味覚をさらに磨かせているのはカナだけれど、それを満たしてくれるのはもはやカナしかいないとも言える。
「おいしいよ」
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