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カナの奇跡的な(あるいは刺激的な)料理の味に何度も打ちのめされながら、花を持ってきたついでだけでなく、誘えばうちにちょっとはにかんでやってくるようになったのは、俊英さんも満更じゃないからだろうと私はにらんでいたりする。
「りょーかい」
私は敬礼のポーズをとってカナにウインクして見せた。
「この朝顔、そろそろ仕立てをした方がいいかも知れませんね」
俊英さんはうちにくるとまず花を見てくれる。動物のお医者さんが獣医さんなら、花のお医者さんは植医さんかな?
「仕立てってなんですか?」
カナが台所から声をあげる。今日のメニューは彩りサラダと味噌ハンバーグだ。生野菜があるからか、俊英さんも心なしかほっとしているように見える。
「仕立てっていうのは、カナさんも見たことあると思うんだけど、朝顔のつるを竹の棒みたいのにまきつけるやつだよ」
「あー、それ小学校でやったことある!」
私が紙とボールペンとを持ってくると、俊英さんは葉っぱを示しながらゆっくりと教えてくれる。
「この大きい葉っぱが今……七枚ですか。これが八枚になったら、五枚目の上の茎をばっさりと切ってください。で、先の芽を摘み取っちゃうんですね。朝顔は放っておくとぐんぐんぐんぐん伸びていくんで」
「マンションがおばけになっちゃう」
つるがいっぱいに這ったマンションの壁を想像すると、俊英さんもあの熊さんの笑みを返してくれた。
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