第5話

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第5話

 百合子の家は代々庄屋の家系だったのだという。戦国の頃からの家系図が残っており、祖父は大隈町の町長を務めた人物であったのだと言った。宗一郎が百合子の出自を知ったのは今回が初めての事だが、それで沙羅が百合子を宗一郎に強く勧める理由が、やっと分かったような気がした。  そんな百合子の家に、古くから伝わる伝承がある。とある年、水害からの大旱魃で、村は飢饉に襲われた。それは目下に広がる道前平野でも同様だったらしく、歴史に残る大飢饉であったらしい。  その上小さな地震も頻発した。大地震の前触れではないかとされ、疲弊しきった村人が慄いていた所に……。  旅の僧が現れたというのだ。僧は百合子の先祖から話を聞き、それは悪い黒龍のせいであると断言をした。そして山を下り黒龍を討ち、その鱗と髭を持ち帰った。  その鱗と髭を手に、僧は石屋寺に籠もる。3日後急に降り始めた強い雨と共に、石屋寺から龍が飛び出した。その蒼い龍は山を下り、そして全ての天災は去った。  ――けれど村人達が石屋寺で僧が籠もった祠を開けた時には、中には誰もいなくなっている。僧が握っていた鱗と髭もなくなっていて、村人達は一体あの僧はどこへ行ったのかと、不思議に思った、というのが……。 「うちに伝わる話です。今でも毎年、石屋寺からお坊さんを呼んで、うちでご供養をしています。夏の終わりにしていたから、今年ももうすぐなんじゃないかしら。……どうでしょう、何か、お役に立つ話でしたでしょうか……?」 「……ええ。この上なく。役に立つどころじゃありません。今回の話の真髄ですよ。すごい巡り合わせだ。……ん? どうした蜜柑」  百合子の話に引き込まれていたのは、拝み屋ばかりではない。さくらの隣にぴったりと引っ付いて聞き入っていた蜜柑が、宗一郎の傍らに来てその肩口をつまむ。何か言いたいのだろう。宗一郎が普通に話して大丈夫だよ、と伝えると……。 「お兄さん、この女の人、平家の残党の血が流れてる。もう薄いけど、あの落人達と同じ色が混ざってるの。この人を連れて行けば、落人達は話を聞くかも知れない……」
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