第4話

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 沙羅がとった鰻は特上だった。あっという間にみんな平らげて、百合子が空いたお重を手早く片付ける。階下に運んで麦茶のお代わりを手に襖を開けながら、百合子は翼を軽く諌める。 「もう、翼さんたら、悪ふざけが過ぎますよ。先生、寝込んじゃったじゃありませんか。見えない世界の事ならそうおっしゃって頂かないと、私達みたいな見えない人間は、真に受けるんですから……」  麦茶を並べる百合子に、翼は悪びれず言い訳する。沙羅の分の鰻重は宗一郎が術をかけ、蜜柑がそれはそれは嬉しそうに食べた。あった筈の鰻が一瞬にして消えたのを見た時の百合子の驚いた顔に、翼はくすくすと笑っていたが。 「あらー、寝込んじゃったか。申し訳ないなあ。事実をざっくり説明しただけだったんだけど。……にしても、百合ちゃんすっかりこのうちの人みたいだね。まるで若奥さんだなあ。そのベッドに宗ちゃんの隠し子が寝てるよ。そのうち百合ちゃんが『お母さん』なんて言われるようになるんじゃ……」 「やだ翼っ! 趣味の悪い想像しないでよね! 女将さんったら、まー人んちの台所に入り込むのがお上手ですこと! 見えない隠し子の世話は、見える私がしますからお構いなく! さー渇水対策協議会を続けましょ! 部外者はお帰り下さいな!」 「まあまあさくら、そう言わず。協議会には百合ちゃんにも参加してもらおうよ。見えない人の意見も採り入れてさ。百合ちゃん、龍が誰かに殺されちゃっててさー、俺達弱ってるんだよ。龍がいなきゃ雨降らないのに。どうしよう。どうしたらいいと思う?」  明らかに翼は面白がっている。張り詰めた時間が続いて、疲れたのだろう。こうやって場をひっくり返して楽しむのは翼の悪いクセだ。宗一郎が百合子に帰るよう伝えようとした時、百合子は思い付いたように口を開いた。 「あら……、そんな話、聞いた事がありますわ。実家に伝わる古い話で。……何だったかしら。確か……悪い龍を退治した、お坊さんの話」 「……え?」
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