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「あー暑いっ! もう何なのよ殺人的なこの暑さっ! だのに未成年にはビールを飲まさないってどーゆー法律なのよこの国は! ガキはガキらしくガリガリ君でも食ってろとでも言うの!? 子供をなめるなー!!」
店に現れるなり、めちゃくちゃな理論を展開してさくらがブチ切れる。横でブルーのワンピースに身を包んだ蜜柑が、突然のさくらの怒号にびくっとして驚く。
さくらは制服姿だが、汗で前髪が濡れて今にも湯気が出そうだ。補習を終え自転車で店まで来たのだろう。それが大体無謀なのではないかと、宗一郎は思うのだが……。
「お疲れさくら。こんな日に自転車に乗るのはどうかと思うぞ? 電車で動くべきだろう。今日は間違いなく40℃以上ある……」
「ええっ、宗一郎さん、40℃は言い過ぎでしょう? テレビでは37℃って言ってましたし」
レジの中から驚いたように言うのは菜々子だ。つい2週間前にこの『おみやげの家久』に新しくバイトで入った菜々子。今まで翼がひた隠しにしてきたこの彼の婚約者は、もうすっかり店に馴染んで古参の従業員のような風格すら見せている。
宗一郎と妙に気が合う。菜々子はとても落ち着いていて、まるで親類のように宗一郎を安心させる。あの子供のような翼が菜々子にうまく操縦される様が、宗一郎には容易に想像する事が出来た。
「いや菜々子ちゃん、あの気象庁が発表する気温は怪しいよ。昔学校にあったろう? 百葉箱」
「ああ、芝生の上で規定の高さに設置された白い箱。ありましたね。あれが何か?」
「あんな環境で計った温度なんて、アスファルトを歩く時の体感温度とは全く違うよ。照り返しに排ガスに室外機の熱風。実際は40℃なんてきっと軽く超えてる。現にうちの店も……」
「……ええ、エアコンちっとも効きませんね。扉を開け放っているから余計。アーケード中が温室の中みたいで、これでは確かに……」
さくらが大きく頷く。
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