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一度目の絶頂からつづけざまに三度も抱かれ、最後は意識を失うように周防は夢に落ちた。
意識を手放すまえに絶倫かよと文句を洩らしていた恋人。けれど今は天使のような寝顔をみせてくれる。そんな穢れのない周防を西園寺は愛おしく思う。
けれど彼の表情はどこか影があり、幸せな男が見せるそれではない。規則ただしい寝息を確かめると、ひたいに口づけを残して西園寺は部屋を後にした。
どれくらい眠っていたのか。
呪縛から解かれたように目が覚めた周防。部屋はしんと静まり返っていて灯かりひとつない。眠りに落ちてからまだそんなにも時間が経っていないのだろう。
ふだんであればひとり寝が当然であり淋しいとも思わないが、今日は最愛の彼と旅行に来ているのだ心許なく感じてしまう。
西園寺が眠っているだろうとなりのスペースに腕をのばし、彼を肌に感じて心を満たそうとした。けれどいくら彷徨わせてみても触れることが叶わず、手のひらに感じるのは冷えた敷布団の感触だけ。
「あれ、藤隆?」
トイレにでもいっているのだろうか。
それにしては今しがたまで西園寺が横になっていたようには感じらず、それどころか体温の残りもなく一度も使われていないかのように思える。
布団上部のどこかに置かれているだろう照明のリモコンを手探りし、それらしき物に触れると天井に向かってスイッチをオンにする。
とたんに部屋が明るくなると目をしかめ、光に慣れるまでしばし時間を有した。徐々にまぶたを持ち上げとなりの布団に視線を向けてみれば、やはり西園寺のすがたはなかった。
確か夜間は大浴場の使用はできないが、露天風呂は一日中解放されているはずだ。もしや夜中に目が覚めひとりで浸かりにいってるのかもしれないと考えた周防は、無造作に投げ出された浴衣を羽織り帯を巻きつけ部屋を出た。
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