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頼れる親戚がいないこともないが、年頃の兄妹ふたりを受け入れてくれる奇特な者などいやしない。血縁関係といえど結局は最後に唱えるものは金だ。
両親を失ったショックで塞ぎ込む妹と離れて暮らすなど西園寺にはできるはずもなく、残された遺産に群がろうとする毒親戚どもを蹴散らしつつ彼は妹とふたりで生活しようと覚悟を決めた。
現在も実家で兄と妹力を合わせ暮らしているという。社会人となった西園寺は、大学に通う妹の学費は給料から払っているらしい。
なまじそういった経緯を聞いているだけに、周防は恋人としての願いや我が儘など言ったことがない。今日までには淋しい思いもしてきたが、それでも無理を言って西園寺を困らせたくはなかった。
しかも西園寺は妹の学費を稼ぐために毎日働いているのだ、同じ男である周防が女子の未来を潰すような真似などできるはずがない。
一度として愚痴や恨み言を口にした覚えはないが、それでも態度や会話の節々で知らずぼろをだし伝わっていたのかもしれない。
気を遣わせて申し訳ない思いと、気にかけてくれていた喜びに周防は彼の胸にしな垂れかかった。見つめ合いながら周防が感謝と憂惧を口にする。
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