第二話 耽溺

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 当然ながら香奈は俺の馬鹿な言葉に反論を開始。 「なにが誤解よっ。あんた弟にキスしてたじゃない。だいたい、あんたいつから男もイケるようになったのよっ。バイとかふざけないで!」 「待てまて待ってくれ。そうじゃねえ、つか悪りぃ、俺いま混乱してっから……いや、そうだ魔が差したんだ。ほら音稀マジ可愛い顔してるからさ、ふらふらーと、な?」  支離滅裂だが思ったままを口にする。するとまた「ふざけるな」と怒鳴られた挙句、拘束してねえ自由な手が俺の頬をフルスイング。  完全に油断した。防御もないままビンタを喰らい俺涙目。キーンと耳が鳴りくらくらしていると、むくりと起き上がる音稀が姉貴に爆弾を落とす。 「邪魔しないでよ。今度は姉さんから好きなひとを奪ってあげる」  ふふふと笑う音稀の表情に背筋がひやりとしたが、それ以上に小悪魔な態度と口ぶりに心が鷲掴まれちまう。こいつ、男のくせに妖艶というか……エロい。  だが奪うってどういうこった。おまえらの男じゃねえと眉をひそめる俺をよそに、姉弟は意味不明な言い争いを始めてしまった。 「あんた──まだ過去のこと恨んでるわけ。あんなやつ別れて正解だったのよ。ちょっと私に言いよられただけであんたから乗り換えるような男、引きずるほうがどうかしてる」 「僕の友達を悪く言わないでくれる。勇気を出して告白してオーケーもらえたのに、彼をおかしくしたのは姉さんだろ。僕から彼を奪っておいて、よくそんなことが言えるよね」 「ふん、あいつノンケだったよ。言ってたわ、やっぱり女がいいって。同じ顔ならローションなしで濡れる女がいいって、私につっ込みながら善がってたわよ」  あははとシニカルに笑う香奈の目は焦点が合わず異様で、まるでイッちゃってる系のヤバい女そのものだった。それで理解した、この女は真正キチだと。  二度目の浮気騒動から嫁にアパートを追い出され、今は実家で肩身の狭い思いを余儀なくされる俺。離婚に向け着々と弁護士やら準備されるなか、こんなヤバい姉弟に関わってちゃメンタルが崩壊する。  胸ペタな音稀が男であることは確認済みだ、正直なところ諦めるには惜しいが下手にのめり込めば俺の身がヤバい。据え膳も食いっぱぐれたからには早々と退散するのが賢明だ。
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