春の魔法

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男子トイレに入るのが嫌で、 結局、小牧を女子トイレに入らせた。 誰もいない放課後。 だけど誰かが来ないかって、すごく緊張する。 小牧を個室に入れさせて、手だけ出すようにして私は外に出てた。 幸いくっついてたのは手のひらだけだったから、結構距離が稼げた。 意外に何事も無かったように、彼のトイレを済ます事ができた。 「あー、わりーな!スッキリ!」 「…良かったね」 「意外と普通にできたな」 「……」 私の気持ちとは正反対に清々しい様子の彼に、返す言葉が浮かばない。 まさかこんな事になるなんて。 「手、洗わせてよ。って言うか、洗って!」 水を流して、改めて手を洗う。 「剥がれねーかな」 小牧が石鹸をつけて、2人の手の間に右手を入れようとする。 ヌルヌルした感じと、小牧の手の感触に、私はフラフラしそうなぐらいドキドキしてしまう。 「ダメだな…って言うかとりあえず、1回教室戻って休もう」 「うん……」 教室に戻って、散らかった机の上をお互いの片手で片付ける。 向かい合った机の上で手を合わせたまま、私たちはしばらく呆けていた。 「疲れたね…」 「ああ…」 小牧もうなづく。 時間にすると、まだそんなに経っていない。 だけどめちゃくちゃ疲れた。 (このまま離れなかったらどうしよう…) 困る。困るけど…ちょっと嬉しい。 すっごい困るけど。でもやっぱり嬉しい。 大好きな彼の手が、しっかり私の手にくっついているのだ。 それにしてもこうなっている今だって、あまりに非現実的でピンときてなかった。 「おお?」 「何っ?」 「指だけちょっと動かせるようになったぞ!」 「え?ホント?」 さっきは指までピッタリ貼りついていて、パーの形から動かなかったのに、指先がちょっと離れて動くようになっていた。 「だんだん剥がせるんじゃね?」 「どうかな…」 指が動くと、小牧の手を触ってるっていう実感が高まる。 「あっ…、痛っ…!」 「ご!ごめん」 小牧が慌てて謝ってきた。 剥がそうとして引っ張られたから、また手のひらが痛くなる。 「ねえ、無理やり剥がしたら、皮膚がビリって破けそうじゃない?」 「それ、こええ」 触れてる手の感触が緩んで、急に柔らかくなった気がした。 (小牧が、近い…)
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