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 その日の夜――。  おばあさんの予言通り、ヨヤミさんはお店に現れた。手には真っ赤なバラの花束を抱えている。昼間よりも顔色が良さそうだが、それでもあまり血色がない。本人は生まれつきだと言っていたが、それでも心配になる。  ヨヤミさんは微笑むと、真っ赤なバラの花束を僕に差し出した。 「これを、マダムに」 「……ご自分でお渡しになりますか? 奥でテレビを見ていますよ?」  今日は大食いの選手権のテレビ番組を観るのだとおばあさんは言っていた。まだ、始まったばかりの時刻なので、起きているだろう。  しかし、ヨヤミさんは苦笑して素早く首を振った。 「いや……。そうだね……。……また怒られては困るので」 「……分りました」  僕はとりあえず、その花束を机の上に置いた。何本あるのだろう。かなりのボリュームだ。こんなものを貰った女性は、とてもよろこぶに違いない、と思う。 「それで……今日はセットをお願いしたいんだけれども、空いているかな」 「もちろんです、どうぞこちらへ」  おばあさんの予言は大当たりだった。 「カットはしませんか? 失礼ですが、ずいぶん伸びていらっしゃるので……」  僕は、ぼさぼさ頭のヨヤミさんを見て言った。 「うーん。切った方がいいかな? どうにも痛んでしまってね」 「おすすめのトリートメントがありますので、試してみてはいかがでしょう?」 「それじゃあお願いしようかな。髪も短めに揃えてくれ」 「かしこまりました」
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