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 ヨヤミさんの髪をシャンプー台で濡らし終え、彼をカット台まで案内した。昼間とうって変わり、しっかりとした足取りで安心した。  髪を濡らしたおかげで、ぼさぼさだった髪は落ち着きを取り戻していた。僕は、絡ませないように慎重に櫛で髪を梳かしていく。 「はは……。痛んでいるな」 「そうですね……。何か普段からケアなどされてはいないんですか?」 「それこそ、鉄分不足が関係しているのかもしれないな」 「な、なるほど……」  鉄分と聞いてぞっとした。  そうだ、ヨヤミさんは本来、人間の血を飲むあやかしなのだ。  僕は、何か話題を探して視線をうろうろさせた。 「鉄分でしたら、レバーやほうれん草、小松菜などはどうでしょう?」 「うーん……。困ったな、私の苦手なものばかりだ」 「そうですか……。なら、もうサプリメントで取るしか方法がありませんね……」  昼間思ったことを、僕は言ってみた。すると、ヨヤミさんは困ったように笑った。 「そうそう。それも買ったんだけれど、ついつい飲むのを忘れてしまうんだよね」  買ったんだ。  僕は心の中でそう思った。  やはり、人間もあやかしも、最終的に頼るのはそこなのか。そう言えば、前の職場ではエナジードリンクばかりのんでいたな……。コンビニ弁当なのは今も変わらず。僕に流れる血も、きっと不味いのだろうな、と思った。
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