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 トリートメントを終えてヨヤミさんの髪を乾かすと、彼は別人のような雰囲気になった。今の姿なら、美女の元に忍び込んで生き血を啜っていてもおかしくは無い。ぼさぼさ頭からは想像も出来ない風貌に変わった。 「ありがとう。いつもパーティーの前だけマダムにセットしてもらっていたんだが……。これからは自分でのケアも気を付けるよ」 「はい。是非そうして下さい。良かったらトリートメントは販売もしていますので」 「では、一か月分いただこうかな」 「かしこまりました」  本来なら毎日つけなくてもいいのだが、ヨヤミさんの髪の状態から考えると毎日ケアした方が良い。そう考えた僕は、トリートメントの入れ物を手に取り、レジへ向かった。 「今日はありがとう。助かったよ」 「とんでもございません。こちら、トリートメントになります」 「ありがとう。……お代はいつものでいいのかな?」 「はい。それから、新しく会員証を作ったんです。これも良かったらお持ちください」 「会員証……? これは洒落ているね。君のアイデアかな?」 「そうです」 「そうか……。良い方向に進んでいるようで何よりだ」 「また、よろしくお願いいたします」 「こちらこそ、またパーティーの時にはセットをお願いするよ」  そう言って、ヨヤミさんは昼間と同様に指をぱちり、と鳴らした。すると、彼の姿はもう見えなくなっていた。不思議な人だ。  僕は彼が置いて行ったバラの花束を見て思った。仕事に対してのやりがい……。僕が感じているのもそれなのだろうか。まだ自信は無いが、そう信じたい。  僕はヨヤミさんの言葉を何度も心の中で唱えた。  時刻は午後九時。  まだまだ夜は始まったばかりだった――。
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