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きになるあのひと
「こんにちは、旅人さん」
「やあ、こんにちは」
辺境も辺境、三日に一度村に行きあたれば御の字という地方を私は旅していた。行く手には一向に近づいてこない山並み。周囲は短い草の生える乾いた平原。樹は森をつくらず、ぽつぽつと単独で生えている。
騎行する私の視界に、それの姿はずっと前からはいっていた。その地方には生えるはずのない、樫の木の仲間らしい植物。しかし、私の目を引いたのは木そのものではなかった。その木の枝からぶら下がっている何モノかだった。
「そこで何をしているんだね」
「木に生ってるんです」
「果物のように?」
「そうです、最初はとても小さい赤ん坊でしたけれど、だんだん大きくなって今の姿になりました」
「まるで人間の女のように見えるが、じゃあ君はほんとうにその木の果実なのかね」
「わかりません。私を埋めて木が生えてきたら、そうだと言えるのでしょうね」
彼女は喋る果実のようには見えなかった。へその緒のようなもので木とつながり、半透明の薄緑色の包衣のようなものにくるまれて、背中を下に空中で膝を抱えて丸くなっている、裸の若い女のように見えた。
「少しここで休んでいっていいかね」
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