17人が本棚に入れています
本棚に追加
むむむ、胸に穴が…
うちには気になる人がいます。
名前は威さん。
六尺はあるんかなぁ? ノッポで男前。
最近になって、近所のお風呂屋さんで、住みこみとして働きだしたんどす。
内湯のある家は少ないさかい、みんな銭湯に通うんどす。近所の女学生は、とたんにキャアキャアさわぎだしました。
もう四十にはなるんやろうけど、二枚め役者みたいな苦味走った、ええ男なんやもん。うちらがさわぐんは、あたりまえどす。
でもな。うちが威さんを気になるのは、男前やからやおまへん。
だって、だってな。こんなん言うたら、おかしい思われるかもしれへんけど、ほんまなんえ。ウソついとるんちゃうんよ?
じつは、威さんの胸には、大きな穴があいとるんよ! うち、初めて見たとき、仰天して「キャアアッ」って悲鳴あげてしもたわ。
まだ、このころは着物きとる人も多くてな。
威さんも藍のかすりの袷を着とったんやけど、何度見ても、胸のとこが大きく穴になっとるやない。穴のなかから、むこうの景色が見えるんよ。
これで気にならんわけないやろ?
なんで、この人、体に穴があいとるん?
ほんまは妖怪変化やない?
それとも奇術師やろか?
怖いわぁ。穴あいとるのに生きとるわぁ。
最初のコメントを投稿しよう!