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うちは立ち去ろうか、なかへ入ろうか、迷いました。
なんで、さなちゃんが威さんの家におるん?
何、話しとるん?
そろぉっと引き戸を少しだけ、あけてみました。
するとーー
ああっ! 信じられへん! 何しとるんよ!
威さんと、さなちゃんが接吻しとるやないの!
うちがカッとなって、引き戸を思いきりあけようと手をかけたときです。
さなちゃんの肩を両手でつかんで、威さんが、そっと引き離しました。
「さなちゃんは、これからの人じゃないか。君には、いくらでもふさわしい男がいるよ。帰りなさい」
「うちは威さんが好きなんどす。年なんか関係おまへん」
さなちゃんは、ちっとも、ひきさがる感じやありまへん。このままやあかん。さなちゃんに威さんをとられてまう。
うちが今度こそ戸をあけようとすると、急に威さんの声がするどくなりました。
「おれが愛してるのは、今でも死んだ女房だけだ。誰とも新しい家族を作る気はない」
そう言う威さんの胸の穴には、あの人がおります。
白無垢の花嫁衣装を着て、ほんのり、ほおをそめた、あの人が。そばには紋付袴の威さんが、ちょっと、かたい顔して立っとりました。
今でも愛してるのは、あの人だけーー
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