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「ごめんな。女学校も今年いっぱいでやめることになったんよ。相手の人が三十になるさかい、早う結婚したいんやって。前にお母はんと銀行、行ったときに、うちのこと見初めたらしいんよ」
むうん。三十かいな。おっちゃんやな。威さんより若いけど、要は顔やもん。顔なら絶対、威さんのほうがええに決まっとる。
「そんなん、さなちゃん、ええの? さなちゃんが好きなん、威さんなんやろ?」
さなちゃんは、なんとも言えん顔して、うちを見ました。
「うちは、もうええんよ。威さんは頭のええ人よ。ちょっとやそっとのことで、うちみたいな小娘になびけへんわ。うちには威さんの気持ちを変える力はないんやなとわかったから」
そう言われると、うちには、なんも言えまへん。
さなちゃんは、うちの顔をじっと、のぞきこんできます。
「それに、みやちゃんかて、威さんのこと、好きなんやろ? うちにとられたら、腹立つやろ?」
うん、まあ、そうやけど……って、えっと……そやなぁ。やっぱり、好きなんやろな。
胸に穴あいとる人なんか、ほかにおれへんもんな。
うちは、ああいう変わった生き物が好きなんやな。
昔っから、アマガエルが好きとか、巳ぃさんが好きや言うて、さなちゃんやまきちゃんに、仰天されとったもん。
「うち、威さんが好き!」
さなちゃんは、ほうっと、ため息をつきました。
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