17人が本棚に入れています
本棚に追加
「みやちゃんには負けるわ。うちは、あきらめるけど、みやちゃんはあきらめたら、あかんえ?」
「うん。うち、絶対、あきらめへん」
うちは、あきれとるまきちゃんを残して、そのまま、かけだしました。もちろん、威さんの長屋にです。
「威さん。威さん! あけてぇ。あけてくれへんと、戸ぉ、けやぶるえ?」
そしたら、なかから、大きな笑い声が聞こえてきました。寝巻き姿の威さんが、髪をクシャクシャしながら、ガラリと引戸をあけて出てきます。
「朝から、にぎやかだなぁ。みやちゃんは。どうしたんだ? ああ、もう夏休みに入ったんだろ? しばらく勉強会はお休みな」
むむぅ。距離をとってきはったなと、うちは思いました。
威さんは大人やし、うちが威さんを好きなことなんて、うちよりさきに知っとったんやろね。
でも、うち、負けへんえ。
恋は勝負や。勢いや。押して押して押しまくるんや!
「威さん!」
ずいっと土間のなかに入りながら、うちは、うしろ手に引戸をしめます。
「みやちゃん。どうした? 顔が怖いぞ」
「からかわんといて! うち、威さんが好きや!」
威さんは両手を腰にあてて、さて、どうしたものかと考えるようです。胸の穴に……今日は美人さん、おれへんのやね。
最初のコメントを投稿しよう!