むむむ、胸に穴が…

5/7
前へ
/19ページ
次へ
「うちらは早うあがって、威さんに勉強、教えてもらうんよ。みやちゃんは威さんのこと、なんとも思うてへんから興味ないやろし」 むむむっ。でも、なんやろ? うちだけ、のけもんにされると、なんや悔しい。 「うちも、すぐあがる。どこで?」 「番台に決まっとるやろ」 威さんは、今は銭湯の下男なんてしてはるけど、きっと、ええ教育受けとるんやろね。女学校の宿題なんか、ささっと解いてくれはります。そこが、また人気なんやけど。学校の先生より教えるんが、うまいんよね。 みんな、お風呂に教科書持ってきて、威さんに聞いたりするん。でも、威さんは風呂焚きしたり、掃除したりで、番台にいはれへんことも多いから、会えるときがかぎられとって……。 なんで、うち、のぼせてしもたんやろ。うかつやったわ。宿題、わからんとこあったのに。 うちが恨めしく、さなちゃんと、まきちゃんを見送って、十分ほどあとやったか。あわてて出ていったときには、番台にはもう、威さんはいはりまへんでした。 風呂屋の旦那さんが、かわりにすわっとります。 「おっちゃん。威さんは?」 「さっき、晩飯に帰ったえ」 銭湯は夜中の零時まで、あいとるんどす。 せやし、キリのええとこで一人ずつご飯にするんでっしゃろな。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加