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「うちらは早うあがって、威さんに勉強、教えてもらうんよ。みやちゃんは威さんのこと、なんとも思うてへんから興味ないやろし」
むむむっ。でも、なんやろ? うちだけ、のけもんにされると、なんや悔しい。
「うちも、すぐあがる。どこで?」
「番台に決まっとるやろ」
威さんは、今は銭湯の下男なんてしてはるけど、きっと、ええ教育受けとるんやろね。女学校の宿題なんか、ささっと解いてくれはります。そこが、また人気なんやけど。学校の先生より教えるんが、うまいんよね。
みんな、お風呂に教科書持ってきて、威さんに聞いたりするん。でも、威さんは風呂焚きしたり、掃除したりで、番台にいはれへんことも多いから、会えるときがかぎられとって……。
なんで、うち、のぼせてしもたんやろ。うかつやったわ。宿題、わからんとこあったのに。
うちが恨めしく、さなちゃんと、まきちゃんを見送って、十分ほどあとやったか。あわてて出ていったときには、番台にはもう、威さんはいはりまへんでした。
風呂屋の旦那さんが、かわりにすわっとります。
「おっちゃん。威さんは?」
「さっき、晩飯に帰ったえ」
銭湯は夜中の零時まで、あいとるんどす。
せやし、キリのええとこで一人ずつご飯にするんでっしゃろな。
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