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でも、うちには、わかったんよ。
やっぱり、威さんは泣いてはったんやと。
胸のなかの女の人が、心配そうな表情で、威さんの胸を小さな小さな手で、なでとったんやもん。
そうや。この人には家族がおれへんのやと、そのとき初めて、うちは実感しました。威さんの年で独り身なんは、深い事情があるに違いないんやって。
「威さん。うち、これから夕餉なんよ。いっしょに食べへん?」
思わず、口から出まかせが出とりました。
威さんは、ちょっと考えたあと、ニッコリ笑わはりました。笑顔は少年みたい。
胸のなかの女の人も嬉しそうどす。
「それは助かるけど、悪いよ。親父さんやお袋さんは了解してるの?」
「うちのワガママは、なんでも聞いてもらえるんよ。そのかわり、うちに宿題、教えてぇな」
「なるほど。まあ、それなら。でも、三十分で仕事に戻らないと」
「ええよ。勉強は明日の仕事前に教えてくれはったら」
というわけで、とつぜんながら、威さんは、うちの家庭教師になりましたん。
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