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その人、誰なん?
威さんは月曜から金曜まで家に来てくれはります。
威さんの仕事が始まる前の一時間ほど。
うちに勉強教えて、それから仕事に行って、今度は七時すぎに夕ご飯、食べに来るんどす。
最初は両親もおどろきましたけど、威さんは、きさくやし、話がうまいんどすなぁ。あちこち旅に行っとって、そんな話を聞くだけでも楽しいんどす。
せやし、威さんは、あっというまに、うちの家になじみました。
おかげで、うちは、あの人を観察する機会が増えました。威さんの胸の穴に住む、小さい美人さん。
いつも見えとるわけやないんよね。
うちは、あることに気づきました。
その人が見えるのは、いつも威さんが、ぼんやりしとるときなんやって。
うちのみんなとご飯を食べながら、威さんの穴のなかには、違う景色が見えとりました。
今の長屋と変わらん粗末な家やけど、小さい美人と小さい威さんが、二人で小さい座卓をかこんで、ご飯を食べとるところ。二人で笑いながら、それは幸せそう。
人形劇みたいなもんどすな。
本物の威さんは、お茶の間の話で盛りあがりながら、お母はんの得意料理をおいしそうに食べとるのに、胸の穴のなかでは、別の人とお食事中。ひっそりと続く人形劇。
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